クチナハ 〜平安陰陽師賀茂明淫妖物語〜 44


(44)
「それが本当なら、頼みに思って良さそうですが・・・確証がないというのは?」
「ああ、実はその話がな、同じ坊主の話かどうか分からんのだ。
吉川上人というのは白犬を連れているとさっき云っただろう?
だが、その難波で妖怪退治をした聖というのはまったくの独り身で、犬なんぞ飼って
いなかったと云うのさ。・・・別人の噂が混同されているのかもしれん」
「そうですか・・・」
もとより市井の聖などに過大な期待をかけていたわけではない。
その吉川上人なる人物を探すことが事件の解決と結びつかなかったとしても、
それは仕方のないことだと明は思っていた。
寧ろ、聖の召喚が期待外れに終わった場合に光がどれほど落胆し自責するかと思うと
そちらのほうが気がかりだった。

――近衛はもう、目的の地に着いただろうか。
近衛が発った時己は臥せっていて、旅支度をさせる所まで気が回らなかったけれども、
食料などはきちんと持って出たのだろうか。
道中、盗賊や獣に出くわして難儀したりはしていないだろうか。
かつて都の四神をすら御神刀で圧倒したことがある光の腕なら
多少の困難はものともしないだろうが、
せめてお守り代わりに己の書いた御符を一枚持たせてやればよかった。
己という人間は、何故こう肝心な時に抜けているのか――
今頃は己を想いながら遠い洛外の山中に分け入っているであろう光を思うと、
気遣わしさと愛しさが沁むように込み上げて、
明は思わず両手を胸前で握り締め祈るように目を閉じた。
 
 



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