無題 第2部 44
(44)
ヒカルの母は気さくでおしゃべり好きで、久しぶりの賑やかな食卓は、アキラの心をほぐした。
彼女はアキラを気に入ったようで食事中もずっと、彼に話し掛けてきた。
「塔矢はオレの客なのに。」とヒカルが拗ねて口を尖らせたくらいだった。
食べたらすぐに暇乞いするつもりだったのに、気付いた時にはなぜかヒカルの家に泊まる
事になってしまっていた。
食事を終えた時には、まだ早いから食後のお茶でも飲んでいけと言われ、ヒカルの母の
手製のケーキを食べ終えた時にはもう遅い時間だから泊まっていけ、と言いくるめられた。
延々と続くヒカルの母のおしゃべりに付き合わされた後、無理矢理風呂を勧められ、気付
いた時にはアキラは、彼には若干小さ目のヒカルのパジャマを着せられていた。
「あんたの部屋にお布団出しておいたから、後はよろしくね、ヒカル。
明日は塔矢くん、早く出なきゃいけないって言うから寝坊しないようにね。」
それでやっとアキラはヒカルの母から解放された。
「にぎやかなお母さんだね。」
階段を上りながら、アキラはヒカルに笑って言った。
「まったく、やんなっちゃうよな。うるさくってさ。ごめんな、付き合わせちゃって。」
|