Shangri-La 44
(44)
「進藤…?進藤?」
霞がかかった意識の中で、アキラは慌ててヒカルを呼んだ。
つい今し方まで肌を合わせていたのがウソのように、
何度呼んでも、ヒカルは答えてくれない。
ドアを開けようとしても、ヒカルが体重を乗せていて開かない。
「進藤…、なんで……………」
ヒカルを詰る言葉は、声にならなかった。
自分を支えることが出来なくなって、そのままどさりと腰から落ちた。
何が起きたのか全く分からない。
ただ、ヒカルに拒絶された現実だけを、なんとか飲み込んだ。
全身の熱が引き始めると、罪悪感が急速にヒカルを支配した。
(家族の大事に、しかも両親が留守にしているこの家で
こんなこと、してるなんて……オレって親不孝者ってヤツだよな…)
ヒカルは、先刻、新しいアキラへ好奇心を持った事を後悔していた。
その淫らな姿がうしろめたさを強め、呵責に耐えきれなかった。
ドアの外からは呼ばれはしたが、答えずにいると
どさっ、と、鈍い音がして、静かになった。
少しして、ぺたん、ぺたん、と床が鳴ったので
音が遠ざかるのを確かめてから、ベッドの上にのっそりと横になった。
(お母さん、今晩も何ともないといいけどな…。
塔矢もこんな時くらい、余計な心配事増やさないで欲しいよ…)
「あーもう、ホント、疲れた………」
睡魔が枕元まで忍び寄ってきていた。
誘われるまま瞼を閉じると、行為の後の倦怠感が
静かに速やかに、ヒカルを深淵の眠りの奥底まで押し沈めた。
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