金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 44


(44)
 アキラはヒカルの細い腰に引っかかっているスカートのホックを外し、ファスナーに手をかけた。
ジーッ―――ファスナーをおろす音。それに合わせて心臓がバクバクと音を立てて、アキラの
頭の中に響く。緊張して手が震えて、最後までファスナーをおろしきったときアキラは安堵の
息さえ吐いた。
 アキラがそこから手を離すと同時に、ストンとスカートが落ちた。ヒカルは今や下着一枚の
あられもない姿で…ドキドキしながら視線を下げて、アキラは「あれ?」と目を瞬かせた。
 身体が震える。堪えようとしても堪えられない。耐えきれずにとうとう吹き出した。
「何だよ!笑うな!」
「だって…キミ…そのパンツ…」
アキラは息を止めて、こみ上げる笑いを何とか止めようとした。
「こうしないとスカートからはみ出しちゃうんだから、しょうがねえだろ!」
 ヒカルはトランクスの裾を折り曲げて、安全ピンで留めていたのだ。
「…でも…アハハ…ああ…おかしい…」
「もう…バカ!笑うなったら!」
 緊張も何もかも吹き飛んでしまった。さっきまですごく厳かな儀式を執り行っていたような
気がしていたのに…身体の力が一瞬で抜けた。
「もう知らねえ!オマエとはしねえ…やめる!」
と、手近にあった枕を投げつけられた。
「痛…!ゴメン…ゴメンってば…!」
「うるさい…バカ!」
すっかりへそを曲げてしまったヒカルをギュッと抱きしめた。
「好きだよ…ボク…キミのことがすごく好きだ…」
「じゃあ、もう笑うなよ?」
ヒカルはアキラの首に腕をまわした。間近にある彼のふくれっ面。アキラはにっこり笑うと、
返事の代わりにそのふくれた頬にキスをした。



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