失着点・展界編 44


(44)
ヒカルは口を開いて緒方の舌を迎えたが、舌先がほんの少し触れ合う程度の
ところからは入って来なかった。それでもなお緒方の舌を吸おうとするヒカル
をなだめるように、ヒカルの顔を両手の平で包んで緒方が離れた。
ヒカルはしばらくポーッと緒方を見つめていた。
さっきまでの全く感情の見えない冷たい表情ではなく、幾分不機嫌そうに
ムスッとしている緒方の顔がそこにあった。
「…やれやれ…。」
緒方はため息をつきながら眼鏡を外すと手を伸ばして脇の棚の上に置いた。
壁に手をついてヒカルに問いかける。
「…少しは落ち着いたのか?」
「…!」
ヒカルは赤くなってそっぽを向いた。その顔を大きな手が捕らえて正面にし
クイッと上に向かせる。
「…助けて、と言ったな。…また傷の手当てをしてもらいに来たのか?」
「ち、違うよ!!」
手を振り払い赤くなってヒカルは怒鳴った。だが再び緒方に顔を掴まれる。
「…オレにはお前が自分で自分を傷つけようとしているとしか思えん。」
その言葉を聞いて、緒方の手の中で、ヒカルはフッと笑った。
そうなのかもしれない。痛みを忘れようとして別の痛みを求めている。
「…そうだよ。…もう一度傷の手当てして欲しいんだよ、先生に…」
「…本気で言っているのか?」
「…シャワー、使っていいかな…、緒方センセイ…。」
少し空ろな瞳で笑みを浮かべたヒカルの表情は緒方をゾクリとさせた。



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