うたかた 44
(44)
「………」
冴木の車が見えなくなってしばらく、加賀とヒカルの間に気まずい空気が流れた。
ふと、加賀の手がヒカルの頬に伸びる。
「え…ちょ、イタッ…痛いよ加賀ぁ!」
嫌がるヒカルを押さえつけて、加賀は冴木がキスした場所を何度も擦った。
「もう!何するんだよ!!」
「……別に。」
「………怒ってんのか?」
「怒ってねえよ。」
(うそつき。)
加賀の声は不機嫌なままだ。
ヒカルは冷たい加賀の手を取って、両手で握りしめた。
「せっかく来たんだから、あがってくだろ?」
ほんの少し逡巡して、加賀は、ああと短く答えた。
いつの間にか雨足は強くなってきていた。
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