金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 44 - 45
(44)
アキラはヒカルの細い腰に引っかかっているスカートのホックを外し、ファスナーに手をかけた。
ジーッ―――ファスナーをおろす音。それに合わせて心臓がバクバクと音を立てて、アキラの
頭の中に響く。緊張して手が震えて、最後までファスナーをおろしきったときアキラは安堵の
息さえ吐いた。
アキラがそこから手を離すと同時に、ストンとスカートが落ちた。ヒカルは今や下着一枚の
あられもない姿で…ドキドキしながら視線を下げて、アキラは「あれ?」と目を瞬かせた。
身体が震える。堪えようとしても堪えられない。耐えきれずにとうとう吹き出した。
「何だよ!笑うな!」
「だって…キミ…そのパンツ…」
アキラは息を止めて、こみ上げる笑いを何とか止めようとした。
「こうしないとスカートからはみ出しちゃうんだから、しょうがねえだろ!」
ヒカルはトランクスの裾を折り曲げて、安全ピンで留めていたのだ。
「…でも…アハハ…ああ…おかしい…」
「もう…バカ!笑うなったら!」
緊張も何もかも吹き飛んでしまった。さっきまですごく厳かな儀式を執り行っていたような
気がしていたのに…身体の力が一瞬で抜けた。
「もう知らねえ!オマエとはしねえ…やめる!」
と、手近にあった枕を投げつけられた。
「痛…!ゴメン…ゴメンってば…!」
「うるさい…バカ!」
すっかりへそを曲げてしまったヒカルをギュッと抱きしめた。
「好きだよ…ボク…キミのことがすごく好きだ…」
「じゃあ、もう笑うなよ?」
ヒカルはアキラの首に腕をまわした。間近にある彼のふくれっ面。アキラはにっこり笑うと、
返事の代わりにそのふくれた頬にキスをした。
(45)
もう一度ヒカルを布団の上にそっと横たわらせた。そして、裸で震えているヒカルの前で、
自分も服を脱いだ。ズボンも下着も、全て脱ぎ捨てヒカルの上に再び覆い被さった。
ヒカルの腕がアキラの首にまわった。両手でギュッと抱きしめてくる。そうやって、
しがみついたまま、彼は不安そうに瞳を揺らせた。
「なあ…オレ、したことないんだ…どうしたらいい?」
どうしたらいいと訊かれても………
「オマエ、どう?したことある?」
嘘を言っても仕方がないし、どうせすぐにバレるので、アキラは正直に「ない」と、答えた。
「じゃあ、どうするんだよ?」
心細げな声に身体が震えた。どうするかなんて、自分にもわからない。ただ、身体の奥から
突き上げてくるような熱さが、その答えだと思った。
「なあってばぁ…」
ヒカルは軽くアキラを揺すった。駄々をこねるように、何度も何度も身体を揺さぶる。
「甘えてるの?赤ちゃんみたいだ…」
「だって…」
オマエは怖くないの?と、ヒカルはアキラを見つめる。
「うん…怖い…キミと同じ…」
その瞬間、ヒカルは安心したかのように、全身の力を抜いた。項にかけられていた腕がするりと
肩を滑って、布団の上にぱたりと落ちた。
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