Shangri-La第2章 44 - 46


(44)
久しぶりのヒカルは、少し体つきが変わったように思う。
ヒカルの身体は細くて、薄い。
寄りかかる胸は、こんなにはしっかりしていなかったような―――
気になって、Tシャツの上からヒカルの胸元を何度も撫でた。
ほんの2、3ヶ月とはいえ、少し大人になったのかと嬉しくもあり、
自分の知らないところで成長している事が淋しかった。
いつも一緒にいられると思っていたけれど、そうではなかった。
自分も、ヒカルの知らないところで少し成長しているのだろうか。

ヒカルと居る時間は、とても幸せだ。
何も話さなくても、何もしなくても、
ただ抱き締めてもらえるだけで、それで十分だ。
ただ、今はこうしていられて幸せだが、次はいつか分からない。
もしかしたら、とんでもなく先なのかもしれない。
先が見えない約束は辛すぎて、もう二度としたくない。
目を閉じると、昨晩の緒方の言葉が頭を掠めた。

―――進藤の時間を、お前が買えばいいだろう?


ヒカルの時間は、一体、いくら位するんだろう?
キミと一晩過ごすためには、いくらあればいい……?


(45)
(……いや、いけない。そういう事を考えるのは…)
昨晩、緒方の口からその言葉を聞いたときは
虫酢が走るほどの嫌悪感を覚えた筈なのに、
そして、ヒカルがそんな事を言われたら
きっと同じように不快に思うだろうに
それでも、そんな考えに染まり始めている自分がいる。
そんな自分を、ヒカルが、不快感も露に見下ろす姿が浮かんで
アキラは慌てて考え事を止めようと試みた。

そういえば、ヒカルは話しかけても来なければ
お茶を飲む気配もない。
アキラの髪を弄るヒカルの手だって、いつの間にか止まっている。
ヒカルの片腕に身体を支えられ、なおかつ額の上にはヒカルの頬が
乗せられた今の状態では動くこともままならないが、
それでもなんとか様子を探ると、規則正しい呼吸音だけが聞こえる。
あまりに早く寝入ってしまったのは、疲れているからだろうか。
そっとアキラが身を捩ると、肩に置かれたヒカルの手が
音を立てて畳の上に落ち、それでもヒカルは反応しなかった。

「進藤、進藤……ここで寝ないで、進藤…」
ヒカルの反応は鈍い。
アキラは仕方なく立ち上がり、布団の用意を始めた。
「進藤、寝るなら布団で寝て…、ほら、進藤」


(46)
アキラが振り返ると、ヒカルは座椅子の上で
抱いていたアキラを失い、バランスを崩したままの
異様に不自然な体勢なのに、起きそうな気配は露ほどもない。
「進藤、そんな変な姿勢で寝たら、後で身体痛くなるよ?」
その不思議な格好がおかしくて、半分笑いながら声をかけた。
ヒカルは弱く唸っているが、やはり動きそうには思えない。
パジャマを用意すると、アキラはもう一度、ヒカルを促した。
「進藤、着替えて布団で寝て……ここに寝間着あるし
 布団もそこにあるし、すぐ寝られるから、ほら、早く」
「んー…………」
ヒカルはやっと身体をずらすと、唸りながら目も開かずに這いずり
ようやく布団まで辿り着いて、そのままその上に伏せて丸まった。
尺取り虫かなにかを移動させているかのようで、可笑しい。
「進藤…、着替えて、布団の中で寝て欲しいんだけど?」
「ん、んんぅん…」
なんとなく返事はあるが、かといってヒカルが動く気配はない。
余程眠いのだろうが、その姿が笑いを誘うのは何故だろう?
しかし、ヒカルをこのまま放っておくわけにもいかない。
(とりあえず、着替えさせないと…)
 
 



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