無題 第2部 45
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通されたヒカルの部屋は思ったよりも綺麗に片付いている。
ステッカーがペタペタ貼られた冷蔵庫(部屋に冷蔵庫?)や、怪獣のおもちゃ、本棚のマンガ
本や床に転がったゲーム機が、進藤らしいな、とアキラは思った。自分の部屋とは随分と
違うけど、それでも本棚の中にはマンガ本に混ざって詰碁集や囲碁雑誌も並んでいるし、
部屋の隅には碁盤も置かれている。
「碁盤、あるんだね。今から一局打とうか?」
何気なく言ったその一言に、だが、ヒカルの顔が強張った。
「あれは…」
口篭もってからアキラを見上げたその顔は、なんだか、今にも泣き出しそうだ。
「進藤…?」
「もう、時間も遅いしさ、今から打ってたら遅くなっちゃうし…
明日、朝早く出なきゃならないだろ?だから、もう寝ようよ。」
震え声で、必死に言い募るヒカルに対して、アキラはそれ以上追求する事は出来なかった。
わかった、そうだね、と告げ、それぞれの布団に入って、電気を消した。
薄闇の中で、ヒカルは声に出さずに、アキラに謝った。
―ゴメン、塔矢。
でも、この部屋でおまえと差し向かいで打ったりしたら、オレ、泣いちゃいそうなんだ。
アイツを思い出して、泣いちゃいそうなんだ。
オレ…おまえに泣き顔なんか見られたくないんだよ。
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