Shangri-La 45
(45)
アキラは黙って俯き、頭からシャワーの湯をかぶっていた。
自分はこんなにもヒカルを求めているのに、伸ばした手が
触れるか触れないかのところでヒカルはひらりと身を翻し、
指先を掠めて一歩向こうに逃げてしまう。
今し方のヒカルの声が、耳から離れない。
ここまで怒っているのは初めての様な気がする。
それが自分に向けられた事は衝撃だった。
今日のヒカルは疲れているから、だから無意識のうちに
本当は心にもないことをしてしまっているんだ、と思いたかった。
でも、疲れているからこそ本音を隠すことなく
ぶつかってきたのではないか?とも思えてしまう。
いくら身体を重ねても、渇きを癒すことは出来なかった。
ヒカルが怯んでいるのが分からなかった訳ではないが、
自分を止めることができなかった。
降り注ぐシャワーの湯が氷のように冷たく感じる。
アキラはのろのろとではあるが事務的に自分を洗い清めると
重い足取りでバスルームを出た。
ヒカルは自分をどう思っただろうか?
そう考えただけで、ヒカルと顔を合わせる事が怖かった。
ヒカルの意識が、気持ちが変わってしまえば、
自分たちの関係は必然的にこれまでと変わってしまうだろう。
ヒカルの部屋へ続く階段が、まるで絞首台の階段のように思えた。
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