交際 45 - 46
(45)
社はアキラに掴まれたまま、見下ろすようにして吐き捨てた。
「勘違いするなや…無理矢理ヤッたわけやない…同意の上や…」
「ウソを吐くな!進藤がそんなこと…!」
アキラはますます強く社を締め付ける。社は、鬱陶しそうにアキラの手を振り払った。
「ウソやないわい!進藤がヤッてもエエゆうたんや!」
ヒカルが勢いで受けてしまったことまで言う必要はない。
「オレが進藤好きなん知っとって、据え膳供えてったんはお前や!」
アキラの鋭い視線がズブズブとあちこちに突き刺さる。負けじと社もこれ以上ないくらい強く
睨んだ。これが本物のナイフなら、お互い血まみれだっただろう。
「それに、お前に人のこと言えるンか?」
「どういう意味だ?」
アキラの眉が跳ね上がる。
社は皺になったシャツを整えながら、アキラを見遣った。
「進藤がお前ンとこに行ったとき、追い返したんと違うンか?」
「進藤がボクの部屋に?」
社はムッツリと押し黙った。自分とのセックスの後にヒカルが泣いてしまったなどとは、
アキラには絶対に言いたくない。だけど、アキラの部屋から戻ってきて、ヒカルのすすり泣く声を
社はずっと聞いていたのだ。ヒカルが泣き疲れて眠ってしまうまでずっと……。
自分のことを棚に上げるわけではないが、ヒカルに対するアキラの仕打ちを許すことは
できなかった。
「どういうことだ?」
「なんでもない!」
アキラに鋭い一瞥をくれて、社は出て行った。
(46)
ヒカルと全く同じ言葉をアキラに残して、社は背中を向けた。忌々しいことだ。社の言葉は
ナイフのように、アキラの心を引き裂いた。信じられない。
「…………進藤が社と…」
自分がどれほど大切にしていたか、ヒカルには伝わっていなかったのか?こんなに
簡単に裏切られるなんて思ってもいなかった。いや、社が本当のことを言っているとはかぎらない。
社が腕力に物を言わせたのかもしれない。あれだけ体格に差があるのだ。ヒカルなんて
簡単に押さえ込まれてしまう。
アキラは、どうしても、ヒカルの意志で抱かれたなんて思いたくなかった。
どっちにしろ、ヒカルと社を同じ部屋で眠らせた自分がいけなかったのだ。ヒカルが
欲しくて堪らなかったくせにやせ我慢して…結果がこれだ。
それに、社の言葉も気になる。
「進藤が来た?」
夕べもヒカルのことが気になって、なかなか寝付けなかった。かなり長い間、布団の中で
何度も寝返りを打っては、眠ろうと努力していた。漸くウトウトしかけたとき、襖の向こうに
人の気配を感じた。
重い身体を無理矢理起こして、襖を開けたが、そこには誰も居なかった。おかしいなと首を
傾げつつ、再び布団に入った。そこから後の記憶は曖昧だ。たぶん、そのまま眠ってしまったのだろう。
大きく息を吐いた。ヒカルがアキラの元に来たのが、社に抱かれる前か後かはわからないが
それに気づかなかった時点で自分はヒカルを拒絶したことになるのだろうか?
ヒカルの過ちを簡単に許すことはできないが、それ以上に彼を失うことの方が怖い。
ヒカルもきっと後悔している。アキラに知られるのを恐れているから、あんな風に畏縮しているのだ。
少し叱って、それから許してあげよう。彼は子供だから、深い意味など考えずに行動して
しまったに違いない。
冷たい水で顔を洗って、気持ちを静めた。寝不足気味の頭がすっと醒めるような気がした。
水とともに、心の中でつかえているものも流れていく。けれど、頭の片隅ではほんの少しだが、
まだ蟠るものが残っていて、アキラの気持ちは晴れ晴れというわけにはいかなかった。
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