クチナハ 〜平安陰陽師賀茂明淫妖物語〜 45 - 48


(45)
「賀茂・・・そう案ずるな。よしんばその坊主が役に立たなかったとしても、
おまえのことはオレが必ず何とかしてやる」
肩に手を置かれて振り向くと、緒方が安心させるように明を見つめ微笑んでいた。
「あ・・・はい。あの・・・」
「オレの力で全国の名僧名陰陽師を集めてやる。どうしても駄目だったら、
オレが行洋様を通して一の宮に目通りを願おう。おまえの為なら手を尽くしてやるぞ」
緒方は滅多に見せない穏やかな目をしてもう一度微笑んだ。
旧知の人物の珍しい表情に見入りつつ、明は慌てて訂正した。
都を護る陰陽師たる己が、妖しのことでそれほどまでに気弱になっているなどと
思われては――少々恥ずかしい。
「あ、はい、ありがとうございます。ですが、今のは・・・違うんです」
「違う?何がだ」
「ええと、ボクがいま心配なのは――勿論ボクの中にいる、こいつのことも
気がかりなんですが――それより近衛が、今頃どうしているかと思っ・・・」
最後まで云い通すことは出来なかった。
光の名を口にした途端喉がつかえて、込み上げた涙を堪えるだけで精一杯だった。
光に会いたい。
光にここにいて欲しい。
己にとって光はいつの間にかこんなにも大きな支えになっていたのかと、改めて驚く。

そんな明を見て、緒方の表情が変わった。
口元も眼差しも硬く強張り、目に不穏な光が宿る。
一瞬置いて、明はその変化に気づいた。
「・・・緒方さん?」
「・・・は・・・はり」
「え?」
「おまえはやはり――あの検非違使のことが」
 
 


(46)
「・・・・・・」
――どうしたのだろう。
何故緒方はこんな怖い顔をしているのだろう。
さっきまではこの人にしては珍しいくらい穏やかだったのに。
己が何か怒らせるようなことを云ってしまったのだろうか。
緒方が折角己のために尽力してくれると云ったのに、それを蔑ろにするようなことを
云ったからだろうか。

緒方はまだ、明にはよく分からない感情を湛えた目で、じっと明を見つめている。
息苦しくなって目を逸らすと、視線の向いた先に青紫色の光があった。
――夕暮れ。
ぞくっと背筋に震えが走る。
日が落ちるまでにはまだ少し間があると思っていたが、もうこんな時刻になっていたのか。
迫り来る夜の予感と共に、あのおぞましい責め苦への恐怖が甦る。
・・・・・・
「ゃうっ!」
反射的に声が洩れた。
「む?どうした、賀茂!」
「あ、あ、あ・・・あ・・・ぁ・・・っ!ふぅぅう・・・っ!」
脇息に載せていた肘ががくんと滑り落ちる。
明は腰から下を切なくよじり、頬を紅潮させて涙を滲ませた。
「・・・妖しか?おまえの中のそいつが、また暴れ出したのか!?」
緒方に抱き起こされながら、白い喉を仰け反らせてコクコクと頷く。
予想しつつ恐れていたことが起こったのだ。
 
 


(47)
クチナハの動きは、明が懐に入れている御符のせいか
これまでに比べれば格段に緩やかだった。
緩やかで、そのぶん甘かった。
「やぁ・・・っ!いやっ、・・・嫌ぁぁっ・・・!」
御符で動きを制限されたことを逆手に取って、うねうねと焦らすような動きを繰り返す
体内の異物に、明はただ声を激しく震わせ身悶えるしか術がなかった。
クチナハの体表から分泌される淫液が、後門全体をうずうずと侵し始める。
無理に潤わされた場所でクチナハがくぷり、じゅぷりと蠢く淫靡な音が
身内を伝って直接耳まで響く。
――この音はきっと、緒方にも聞こえているに違いない。
羞恥のあまり、顔が湯を浴びたように熱くなった。

「賀茂、しっかりしろ!苦しいのか!?賀茂!」
「あ・・・ぁっ・・・あっ、緒方さっ、・・・見ないで、・・・見ないでくださいっ、
お願っ・・・一人にしてください・・・っ!」
式の小鳥が心配そうにパタパタと飛び回る。
その羽音も耳に入らないほど、明は与えられる遣る瀬ない刺激と必死に闘っていた。
「し、しかしこんな状態のおまえを一人になんぞ・・・出来るわけなかろう!」
「でも、このままじゃボクッ・・・、お願い、ですから離してください・・・っ!」
抱きかかえる緒方の腕を明は懸命に振りほどこうとした。
確かに考えてみれば、己が緒方の立場だったとしても
こんな状態の相手を置いて去ることなど出来るものではない。
緒方に出て行けと云うのは無茶な要求なのかもしれない。
だが、それならせめて上掛けをすっぽりと被って、浅ましい己が姿を
緒方の目からも誰からも隠してしまいたかった。
「賀茂明」が妖し風情に嬲られて精を搾り取られる姿など――
誰にも見せたくない。
 
 


(48)
だが緒方はもがく明の体を己の体ごと臥所の上に横たえ、両の手首を押さえつけた。
「・・・っ?お、緒方さ・・・ん」
「・・・苦しいか?」
「く、くるしい、です」
何故そんな分かりきったことを訊くのだろう。
それより早く離して欲しい。このままでは、
「・・・そいつは、どうやっておまえを苦しめる」
「え」
「まだ詳しく聞いていなかったからな。確認だ。
そいつに中で暴れられて、おまえはどんな風に苦しいんだ。・・・苦痛はあるのか?」
何故今こんな尋問を受けねばならないのだろう。
だが、後門の中で起こっている出来事から少しでも意識を散らしたくて、
遠くなったり近くなったりする己が声を必死で辿るようにして明は答えた。
「く、苦痛というか・・・痛みは、それほどでも・・・ただ、おぞましくて・・・
こんな妖物に、嬲られている己が情けなくて・・・ひぅっ」
恫喝するようにクチナハが奥の一点を強く圧した。
そのまま一息に到達させられてしまうかと身を固くした明だったが、
予想に反してクチナハはその箇所への圧迫を緩め、
代わりに長い身を蠢かせて後門の内壁を擦り始めた。
ただでさえじくじくと疼く内壁に、更に淫液を擦り込まれるような心地がして
そのおぞましさに全身が総毛立つ。
だがその一方で、ゆっくりと確実に花開いていく、なにがしかの感覚がある。
 
 



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