初めての体験 Asid 45 - 48


(45)
 後々のことを考えて、出力は一番弱くしておこう。強力な武器だが、相手に奪われると
自分が危ない。背後からさりげなく近づいて、押し当てる。ダメージが一番少ないのは、
どこだろうか。心臓に近い辺りは止めといた方が無難だろうな。死なれては困る。
 足を狙うか……ダメージを与えられる上、逃亡も阻止できそうだ。それとも、首の辺りを
狙おうか……。首から下を無力化出来そうだし…。
 ふと、我に返る。こんなことを考えているボクは、つくづく危ない。段々、やり方が
エスカレートしているしな……このままじゃ、いつか新聞の三面記事を飾りそうだ。
 しかし、不確定な未来を憂えるよりも、今、自分の欲求を満たすことの方が大事だ。
今日の反省は、別の機会に生かすこととして、取り敢えず、目的を遂行しよう。ボクは、
社が一人になるのを待つことにした。

 「どうしたんだ?塔矢、帰らないの?」
進藤が声をかけてきた。ボクが、犯罪スレスレ(いや、犯罪そのものか?)の計画を企てて
いるなどとは、露ほども思っていないらしい。ニコニコと愛くるしい笑顔を浮かべている。
「ごめん、先に帰っていて…ボク、この後まだ用事があるから…鍵持っているよね?」
ボクは、進藤を先に帰すことにした。彼は、ちょっとがっかりしたような表情を浮かべたが、
コクンと素直に頷いた。ものすご――――――――く可愛い。夜が待ち遠しいよ。
 この後、進藤と楽しい夜を迎えるためにも、ゴメン社…ホントにゴメンね。今回は、
先に謝っておく。


(46)
 漸く、皆が帰り支度を始めた。一人、二人と対局場を後にする。後に残ったのは、
ボクと社の二人だけだ。ボクが社を待っていたように、彼もボクを待っていたらしい。
まさか…ボクと同じ目的で…!?…………そんな、わけないな。ボクのような人間が、
そうそういるとは思えない。もしいたとしたら、世も末だ。
「あの…北斗杯…よろしくお願いします。」
社がぺこりと頭を下げた。礼儀正しいヤツだな。ボクのように、表面だけではない。
「こちらこそ、よろしく。」
ボクも笑顔で返した。ここで、警戒心を与えるのは良くない。もっと、油断をさせないとな。
 社は、まだ何か言いたいことがあったのだろう。何度も口を開きかけては、躊躇うように
俯いた。なんだ?ハッキリしないヤツだな。進藤は何だってこんなヤツを……あっ!?
 ボクは、ピンときた。進藤のことだ。進藤のことで言いたいことがあるんだ。ライバル宣言でも
する気か?そんなふざけた真似をしたら、ただではすまさない。今からボクがしようと
していることより、酷い目にあわせるからな。
「もしかして、進藤のこと?」
出来るだけ、押さえて言った。社が弾かれたように顔を上げた。アタリだ。さっきの謝罪は
取り消す。
「オレ……オレ、進藤のことが…」
彼は最後まで言えなかった。ボクが、隠し持っていたものを彼の腕に押し当てたからだ。


(47)
 社は声も立てずに、昏倒した。大きく口を開けて喘いでいた。自分に起こったことを
理解できず、ボクに助けを求めるように呻いた。ボクは社の上にかがみ込んで、更に、
もう一度今度は腹にそれを押し当てた。バチバチと弾けるような音がして、社の身体が、
大きく撓んだ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
大きく目を見開いて、身体を反らせたまま痙攣をしている。一番弱いタイプを選んだのに、
それでも大した威力だ……と、思ったら、コレ五十万ボルトもある……。一桁間違えていた。
すまない社。……だが、やってしまったモノは仕方がない。ボクは些細なことは、いつまでも
気にしない主義だ。

 さてと……それではいただきます。ボクが社の服に手を掛けると、社は弱々しく
首を振って拒絶した。そんな目をしても無駄。ボクは、やると決めたら実行あるのみだ。
ちょっとドキドキする。社が見た目と裏腹に、シャイで初なヤツだと知ってしまったのからだ…。
そんな社をボクは今から自由にするのだ。

 手際よく服を剥いでいく。慣れたモノだ。伊達に数をこなしていない。目を閉じていても
できそうだ。
 社は、身を捩ることも手で身体を隠すことも出来ず、ただ、ボクを涙目で見つめた。
相当、苦しいんだろうな…。さすがにボクも、コレを自分では試してない。イヤ、試して
みようとは思ったんだが、あと一センチ、あと一センチをどうしても近づけることが
出来なかった。


(48)
 「なぁ…オレを…どないするんや……?」
掠れた声で問いかけてくる。どうするもこうするもヤルことは、一つに決まっているじゃないか。
それにしても惜しいな…今日は縄も手錠も持っていない。どっちにしろ動けないんだから、
必要ないんだけど、ビジュアル的に物足りないというか…。
 ボクは、ちょっと考えた。………あれが使えるかもしれない。ボクは、動けない社を
一人置いて、一旦そこを出ることにした。
「ちょぉ…待……」
苦しそうな声が追いかけてきた。心配しなくてもすぐに戻るよ。他の人に、見つからないうちにね。
でも、そっちの方が、キミにとっては幸福だと思うけどなぁ。
 ボクは、外からは簡単に見えないように襖の影に社を移動させ、扉をしっかり閉めて出ていった。

 十分ほどで戻るつもりだったのに、結構時間をとってしまった。急いで部屋に入ると、
社はまだ倒れたままだった。本当に動けないらしい。良かった。自分で試さなくて…。
もし、試していたら、倒れたまま一週間ぐらい見つけてもらえなかったかもしれない。
「あ…あんた…とうや……」
社が、苦労して首を持ち上げた。目に安堵の色が浮かんでいる。一人で裸で放っておかれて、
相当心細かったみたいだ。自分を酷い目にあわせたボク何かを頼るなんて……。可愛いヤツ。
ほんの少しだけそう思った。



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