トーヤアキラの一日 46 - 50
(46)
ヒカルに心配して貰ってアキラは嬉しかった。ヒカルの温かくて柔らかくて優しい手が
自分の顎に当てられているのを感じるだけで幸せな気分で一杯だった。
ヒカルに言われるままに、少しずつ顎を動かすと、ガクンと口が閉じた。
ヒカルの手が離れるのが嫌で、自分の手を上から重ねてヒカルを真っ直ぐに見詰める。
「進藤・・・・・好きだ」
そう言って体を引き寄せようとすると、ヒカルは慌てて手を引いてしまった。
「もうダメだってばぁ。寒くなって来たからズボンはくぞ!・・・ったく痛かったぁ」
と言って、ヒカルは自分の息子の無事を確認する。
「特に傷はついてないみたいだけど、なんだか・・・ふやけてる気がする」
「ごめん・・・・・・イヤだった?」
「別にイヤだなんて言ってないだろ!・・・イヤじゃないさ・・・・。だけどさ、お前ったら
咥えたまま離さないからさぁ、食べられちゃうかと思ってあせったよ」
「食べられるものなら食べたいよ・・・・・」
アキラの思い詰めた表情を見たヒカルは、溜息をついて諭すように言う。
「ったく冗談はよせよ、もう。・・・あのな、食べたら無くなってしまうだろ?そうしたら
お互い困るんじゃねーの?」
「わ、分かっているよ、そんな事・・・冗談だよ・・・・でも本当にイヤじゃなかった?」
アキラは子供が親に分からない事を尋ねる時のように首を少し傾けながら心配そうに問う。
「イヤなんかじゃないって言ってるだろ!だいたいそんな事まじで聞くなよな・・・」
「どうして?いいじゃないか。どんな感じだったか聞かせて欲しいと思って・・・・」
「どんな感じとかさー、んな事聞くなってば!そう言うお前はどうなんだよ!?」
「・・・凄く気持ち良かった・・・」
そう言いながら、アキラはヒカルの頬に両手を添えて軽く口付ける。
その時の手の感触で、ヒカルの頬が少し濡れていることに気付き、舌でペロペロと
舐め取る。そのアキラの恍惚とした妖しい表情にヒカルは呆然と見惚れていた。
アキラは舐めて濡れた頬をシャツの袖で綺麗に拭いて、ヒカルを見上げた。
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「キミはどうだった?」
「え?ああ・・・そりゃぁ、良かったに決まってるじゃん・・・・」
そう言って恥ずかしそうに微笑む。
アキラも安心した表情でヒカルを見詰めて言う。
「もっともっとキミに気持ち良い思いをさせたい」
ヒカルは生唾を飲み込みながら恐る恐る聞く。
「もっとって?・・・どんな風に?」
「ボクも良く分からないけど・・・・試してみる?」
アキラは真剣な眼差しでヒカルを見詰め、肩に手をかけて力を入れた。
アキラには、男同士が睦み合う方法のおぼろげな知識はあるものの、具体的には全く
分からなかった。だが、ヒカルの問いかけに誘われるように本能がアキラをけしかける。
仄かな明かりの中で鋭く揺らめくアキラの瞳に引き込まれて「うん」と言いそうな
ヒカルの表情だったが、未知の行為に怖気づいたのか、ヒカルは慌てて体を後ろに引いて、
「もう今日はダメだってば。ズボンはくからな!」
と言いながら、ごぞごぞと身支度を始めた。
アキラは一瞬非難するようにヒカルを見たが、具体的な行為に自信が無かった事もあり、
それ以上の行動には出られなかった。
何よりヒカルを傷つける結果になって嫌われるのが一番恐かった。
「そうだね・・・・・寒くなって来たしね」
ヒカルは足に絡まったままの下着とズボンを身につけて、アキラは出たままになって
いた分身をズボンの中に納める。
立ち上がったアキラが、
「電気をつけるよ」
そう言って蛍光灯の紐を引っ張ると、部屋の中が急に明るくなり、嫌でも夢うつつの
世界から現実の世界に引き戻された。
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明るい場所で顔を合わせるのは恥ずかしく、お互いにちゃんと視線を合わせられない。
部屋の中をぐるりと見回したヒカルが、照れ隠しのように笑いながら声を出す。
「うわー、塔矢アキラの部屋はイメージ通りだなぁ!ヘヘヘ」
「どんなイメージ?殺風景って言いたいのだろ?」
「違うよ。ちゃんと片付いていてキチンとしてるっつーか、余計なものが無いっつーか」
「同じようなものじゃないか」
そう言いながらアキラがコートと上着を取るために動いたので、今までアキラの後ろに
隠れていた机がヒカルの正面に姿を現した。
その机の上に置かれているPCを見たヒカルから笑顔が消え、表情が固くなったのを
アキラは見逃さなかった。
アキラはヒカルを視界の中に入れながら、コートと上着とネクタイをハンガーにかけ、
シャツの上からカーディガンに袖を通した。
PCを見詰めていたヒカルは、アキラの視線を感じたのか、わざとらしく部屋を見回すと、
急に叫んだ。
「あっ!いけね!晩メシまでに帰るって言って来たんだった!!電話しなくちゃ!」
「・・・電話なら玄関にあるから使って」
「あ、玄関?じゃあ借りるな」
「廊下を右に行けば分かるから」
「サンキュー」
そう言ってヒカルは急いで玄関に向かった。
残されたアキラはPCを一瞥すると、遠くのヒカルの声を聞きながら、素早く汚れた
下着とズボンを着替えた。
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明るい場所で顔を合わせるのは恥ずかしく、お互いにちゃんと視線を合わせられない。
部屋の中をぐるりと見回したヒカルが、照れ隠しのように笑いながら声を出す。
「うわー、塔矢アキラの部屋はイメージ通りだなぁ!ヘヘヘ」
「どんなイメージ?殺風景って言いたいのだろ?」
「違うよ。ちゃんと片付いていてキチンとしてるっつーか、余計なものが無いっつーか」
「同じようなものじゃないか」
そう言いながらアキラがコートと上着を取るために動いたので、今までアキラの後ろに
隠れていた机がヒカルの正面に姿を現した。
その机の上に置かれているPCを見たヒカルから笑顔が消え、表情が固くなったのを
アキラは見逃さなかった。
アキラはヒカルを視界の中に入れながら、コートと上着とネクタイをハンガーにかけ、
シャツの上からカーディガンに袖を通した。
PCを見詰めていたヒカルは、アキラの視線を感じたのか、わざとらしく部屋を見回すと、
急に叫んだ。
「あっ!いけね!晩メシまでに帰るって言って来たんだった!!電話しなくちゃ!」
「・・・電話なら玄関にあるから使って」
「あ、玄関?じゃあ借りるな」
「廊下を右に行けば分かるから」
「サンキュー」
そう言ってヒカルは急いで玄関に向かった。
残されたアキラはPCを一瞥すると、遠くのヒカルの声を聞きながら、素早く汚れた
下着とズボンを着替えた。
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戻ってきたヒカルは、コートとバッグを拾い上げて身につけながらアキラを見ずに言う。
「やっべー。もうこんな時間だったんだな。早く帰って来いって怒られちゃったよ。
明日は学校にも行かなくちゃいけないし、オレ帰るわ」
「・・・そうだね。駅まで送るよ」
「大丈夫だよ、一人で」
「きっと道が分からないよ。来る時はけっこう裏道を通って来たし、その方が早いから
送るよ」
「そうか?悪いな、塔矢」
隣家の横にある細い脇道を抜けて、駅に向かって二人は歩いていたが、どこかぎこちなく、
そこはかとなく緊張感が漂っていた。
肌を触れ合った事による気恥ずかしさもあったが、ヒカルがアキラのPCを意識した事が
大きな原因である事を二人とも十分に分かっていた。
アキラは、少しでもヒカルを手に入れた気持ちになっていた自分に腹立ちを覚えていた。
───そう、キミには大きな秘密がある。それをまだボクに明かしてくれていない。
視界の中に入るヒカルを横目で見ながら、アキラは出来ることならここでヒカルを問い
詰めたかった。
───キミとsaiはどういう関係なのだ?saiはキミの何なのだ?
今のアキラにとって、saiが誰であるかよりも、ヒカルとsaiがどんな関係にあるのか
という事のほうが何倍も気になるのが本音だった。
出会った頃のヒカルの打つ碁がsaiであると感じていたが、最近は現在のヒカルが彼の
全てだと思うようになっていた。そしてアキラにとって、今のヒカルが何よりも大事な
存在であるために、saiの事には蓋をして、いつか話してくれると信じながら心の奥底に
閉じ込めていたのである。
それが思わぬ形で蓋が開いてしまい、新たな疑念が湧いてくる。
───キミにとってsaiはそれほど大事な存在なのか?saiと何を共有しているのだ?
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