クチナハ 〜平安陰陽師賀茂明淫妖物語〜 46 - 50


(46)
「・・・・・・」
――どうしたのだろう。
何故緒方はこんな怖い顔をしているのだろう。
さっきまではこの人にしては珍しいくらい穏やかだったのに。
己が何か怒らせるようなことを云ってしまったのだろうか。
緒方が折角己のために尽力してくれると云ったのに、それを蔑ろにするようなことを
云ったからだろうか。

緒方はまだ、明にはよく分からない感情を湛えた目で、じっと明を見つめている。
息苦しくなって目を逸らすと、視線の向いた先に青紫色の光があった。
――夕暮れ。
ぞくっと背筋に震えが走る。
日が落ちるまでにはまだ少し間があると思っていたが、もうこんな時刻になっていたのか。
迫り来る夜の予感と共に、あのおぞましい責め苦への恐怖が甦る。
・・・・・・
「ゃうっ!」
反射的に声が洩れた。
「む?どうした、賀茂!」
「あ、あ、あ・・・あ・・・ぁ・・・っ!ふぅぅう・・・っ!」
脇息に載せていた肘ががくんと滑り落ちる。
明は腰から下を切なくよじり、頬を紅潮させて涙を滲ませた。
「・・・妖しか?おまえの中のそいつが、また暴れ出したのか!?」
緒方に抱き起こされながら、白い喉を仰け反らせてコクコクと頷く。
予想しつつ恐れていたことが起こったのだ。
 
 


(47)
クチナハの動きは、明が懐に入れている御符のせいか
これまでに比べれば格段に緩やかだった。
緩やかで、そのぶん甘かった。
「やぁ・・・っ!いやっ、・・・嫌ぁぁっ・・・!」
御符で動きを制限されたことを逆手に取って、うねうねと焦らすような動きを繰り返す
体内の異物に、明はただ声を激しく震わせ身悶えるしか術がなかった。
クチナハの体表から分泌される淫液が、後門全体をうずうずと侵し始める。
無理に潤わされた場所でクチナハがくぷり、じゅぷりと蠢く淫靡な音が
身内を伝って直接耳まで響く。
――この音はきっと、緒方にも聞こえているに違いない。
羞恥のあまり、顔が湯を浴びたように熱くなった。

「賀茂、しっかりしろ!苦しいのか!?賀茂!」
「あ・・・ぁっ・・・あっ、緒方さっ、・・・見ないで、・・・見ないでくださいっ、
お願っ・・・一人にしてください・・・っ!」
式の小鳥が心配そうにパタパタと飛び回る。
その羽音も耳に入らないほど、明は与えられる遣る瀬ない刺激と必死に闘っていた。
「し、しかしこんな状態のおまえを一人になんぞ・・・出来るわけなかろう!」
「でも、このままじゃボクッ・・・、お願い、ですから離してください・・・っ!」
抱きかかえる緒方の腕を明は懸命に振りほどこうとした。
確かに考えてみれば、己が緒方の立場だったとしても
こんな状態の相手を置いて去ることなど出来るものではない。
緒方に出て行けと云うのは無茶な要求なのかもしれない。
だが、それならせめて上掛けをすっぽりと被って、浅ましい己が姿を
緒方の目からも誰からも隠してしまいたかった。
「賀茂明」が妖し風情に嬲られて精を搾り取られる姿など――
誰にも見せたくない。
 
 


(48)
だが緒方はもがく明の体を己の体ごと臥所の上に横たえ、両の手首を押さえつけた。
「・・・っ?お、緒方さ・・・ん」
「・・・苦しいか?」
「く、くるしい、です」
何故そんな分かりきったことを訊くのだろう。
それより早く離して欲しい。このままでは、
「・・・そいつは、どうやっておまえを苦しめる」
「え」
「まだ詳しく聞いていなかったからな。確認だ。
そいつに中で暴れられて、おまえはどんな風に苦しいんだ。・・・苦痛はあるのか?」
何故今こんな尋問を受けねばならないのだろう。
だが、後門の中で起こっている出来事から少しでも意識を散らしたくて、
遠くなったり近くなったりする己が声を必死で辿るようにして明は答えた。
「く、苦痛というか・・・痛みは、それほどでも・・・ただ、おぞましくて・・・
こんな妖物に、嬲られている己が情けなくて・・・ひぅっ」
恫喝するようにクチナハが奥の一点を強く圧した。
そのまま一息に到達させられてしまうかと身を固くした明だったが、
予想に反してクチナハはその箇所への圧迫を緩め、
代わりに長い身を蠢かせて後門の内壁を擦り始めた。
ただでさえじくじくと疼く内壁に、更に淫液を擦り込まれるような心地がして
そのおぞましさに全身が総毛立つ。
だがその一方で、ゆっくりと確実に花開いていく、なにがしかの感覚がある。
 
 


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――疼く内壁をじっくりと擦られる感覚。
息づく明の後門の、奥の一点にクチナハの頭部が押し付けられ、
柔らかく捏ねるように圧迫しては離される。
明の敏感な内部は、クチナハがその先の割れた舌で奥をチロチロと撫でる
あるか無きかの刺激をさえ克明に感じ取った。
人の――近衛の手で与えられるのとはまた別の、変幻自在で繊細なクチナハの快楽に
身も心も蕩かされてしまいそうだった。

そんな明の桜色に上気した顔をじっと観察しながら、緒方は憮然として呟いた。
「・・・ふん。苦痛がないならそれほど焦る必要もなさそうだな。
もっとも、苦痛がない、という程度でもなさそうだが・・・」
「おっ、緒方さ・・・はぅっ、あっ、あぁっ、離し、」
乱れた衿元から覗く明の薄い胸は激しく上下している。
そこに収められていた蛇図の御符を、緒方はぴらりと抜き取った。
「お、緒方さん!?何を・・・」
今起こった出来事が信じられなくて、明はハァハァと息を切らしながら緒方を見つめた。
――緒方の表情は読めない。
頼れると思った人物の意図が急に見えなくなって、とてつもない不安が胸に押し寄せる。
そうして御符が明の身体から離れた途端に、体内のクチナハが――
戒めを緩められたように急激に動きを強め、奥の一点を激しく突き始めた。
 
 


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「あっ、あぁ・・・っ!・・・緒方さん返してください、な、中でまた動きが凄くなって、
・・・凄く擦られて、お、奥をぐりぐりされて、このままじゃ、
・・・あ、・・・ゃぁっ、・・・ぁあんっ、また・・・っ!」
「賀茂・・・許せよ!」
更に信じられない出来事が明を襲った。
緒方が明の単の裾を鷲掴みにして左右に大きく開いたのだ。
「あっ・・・!」
熱気と湿気が籠もった衣の中で既にこの上ないほど熱く昂り立っていたものが、
急に外気と緒方の視線の下に晒される。
欲望の形を慌てて隠そうとした瞬間、クチナハの頭部がぐりりと抉るように奥を突いた。
「い、いやっ、ァッ・・・アーッ!」
絶叫と共に淫楽に四肢を震わせ、緒方が見ている前で明は勢いよく精を放った。
・・・・・・

閉じた目を開けることすら出来ず、
恥ずかしさと情けなさと混乱でしゃくりあげている明の白い脚を、
緒方は膝の所から折って抱え上げた。
――何だろう。
この人はもしや、このまま己を犯す気ででもあるのあろうか。
そうだとしたら、何と云う人非人だろう。
いや、寧ろ物好きと云うべきだろうか。
クチナハの潜む場所に、自ら出向いてゆこうとは――
閉じた瞼の裏に光の姿がよぎり、知らず知らずのうちに涙が一筋頬を伝った。
 
 



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