日記 46 - 50


(46)
 アキラの部屋に、一旦荷物を置いてから、バケツと花火を持って再び外に出た。
「なあ、塔矢どれがいい?ここで打ち上げ花火したら、怒られるかな?」
ヒカルが、はしゃいで花火を取り出す。
「一応、住宅街だからね。打ち上げはやめておいた方が…」
「ちぇ…オレ、景気いい奴が好きなんだけど…ネズミ花火で我慢しとくかな…」
ヒカルは、そう言って、一度に二、三個火を点けた。火花を散らしながら、くるくると
花火が円を描く。ヒカルは、楽しそうに、その花火をよけながら、走り回った。
―――――パン!パン!パン!
破裂音が辺りに響いた。
「げ…!けっこう、大きく響くんだな…大人しく普通のにしよっと…」
 ヒカルは、自分の分を一つ取って、残りの入った袋をアキラに手渡してきた。アキラは、
笑って受け取ると、自分も一本取り出した。
 蝋燭に、火を点けて、溶けた蝋を地面に垂らした。その上に、蝋燭をしっかり立てると、
二人は、それを囲むようにしゃがんだ。蝋燭の炎が、微かな風に揺らめいていた。
 ヒカルが花火に火を点けて、自分もそれに続いた。青や赤の火花が、ヒカルの顔を照らした。
ヒカルは、それをうっとりと見つめている。そして、アキラはそんなヒカルに見とれていた。
 アキラは、ヒカルの行動や、言葉のその一つ一つをとても愛しく思っていた。花火に
はしゃぐヒカルも、美しい火花に見とれるヒカルも、アキラの心に感動を与えずにはおかない。
 「花火って奇麗だけど…すぐに終わっちゃって…なんかこう…」
ヒカルの言いたいことは、わかる。その時は、とても奇麗で楽しいのに、終わる間際は、
なんだか切ない。花火に限らず、何でもそうだ。夏休みだって、旅行だって、お祭りだって…。
ボク達は、いま、こうしているけれど―――――
―――――この時間にも、いつか終わりが来るのだろうか……。


(47)
 ヒカルにそのことを言ってみた。ヒカルは、黙って、アキラを見ている。
 アキラは、『そんなことねーよ。バカだな。』と、ヒカルが否定してくれるのを期待した。
だが、ヒカルは、ひどく真剣な眼差しをアキラに向けた。
「永遠に変わらないものなんて、この世に存在しねーよ。終わらないものなんてないよ。」
ヒカルは、まるで当たり前のことのように、あっさりと言った。
 アキラは、ヒカルの意外な言葉に驚いて、言葉も出なかった。それが、ヒカルの唇から
紡がれた言葉だとは、アキラには信じることが出来なかった。
 ヒカルは、視線を再び、花火に戻して、続ける。
「オレ…バカだから、ずっと変わらないものがあるって信じてた……でも、そんなもの
 ないんだよ……」
ヒカルの口調はとても静かで、本気でそう思っているのだと、アキラにもわかり始めた。
ヒカルの言葉に、アキラは打ちのめされたような気がしていた。
 「でも、塔矢…変わることってそんなに悪いことかな…?」
ヒカルは、アキラの目を見て言った。アキラは、逆に問い返されて、とっさに言葉がでなかった。


(48)
 「オレ、お前に会って変わったよ…おマエと…会わなかったら、この道に進まなかったと
  思う…すごく…すごく感謝しているんだよ…」
アキラの耳には「おマエと」の後に、何か言おうとして、やめた様に聞こえた。ヒカルが
変わったきっかけになる何かが、他にもあるんだろう。だが、それをアキラに告げるつもりは、
ないらしい…。
「先のことなんて、誰もわからないんだよ…わかっているのは、何にでも終わりがあるってこと…」
喩えそれがどんなに不本意でも、どんなに辛いことでも…受け入れるしかない。
「でもね。オレ、夏休みが終わっても、すぐ次の冬休みが楽しみだった…
 もし、オレとおマエが離れても…また、逢いたいな…どんな形でもいいからさ…
 そう思わねぇ?」
ヒカルがアキラに笑いかけた。儚げな笑顔が胸に痛かった。無邪気なヒカルの心の中に、
こんな一面があったとは……。
 消えた花火をバケツにつけると、ヒカルは、別の花火を取り出した。アキラも、
もう一本、花火を取り出し火を点けた。鮮やかな色彩に目を奪われた。
「ボクも変わった…ボクは自分がこんな奴だとは思ってもいなかった…」
「こんな奴って?」
「目的のためには、手段を選ばず、相手の迷惑も何も考えない奴…」
ヒカルは声を上げて、笑った。
「塔矢は、案外、激情家だからな…」
ヒカルが目尻に堪った涙を拭きながら、笑っている。
「でも、そんな自分が嫌いじゃない…こんな奴…」
 沈黙が続いた。花火のはぜる音が、静寂をよけいに際だたせた。
「うん…オレも…そんな奴のこと好きだ…」
 最後の一本が消えるまで、二人は、火花の散る様を見つめていた。


(49)
 二人で、はしゃいで、シャワーを浴びた。髪が濡れたままだったが、かまわず、
そのままベッドに倒れ込み、口づけを交わした。最初は、優しく、甘いキス。だが、徐々に
激しく、熱いものになっていく。唇が離れた時、小さく喘ぎながらヒカルが潤んだ瞳で、
アキラを見上げた。自分の下で、そんな風に息をしているヒカルは、どうにかしてしまいたく
なるほど、悩ましい。アキラは、ヒカルをじっと見つめた。
どれが本当のヒカルなのだろう……。
無邪気なヒカル…艶やかなヒカル…さっきのように大人びたヒカル…
そして、アキラがまだ見たことのないヒカルが、きっといる。
 ヒカルの腕が優しく首に絡んで、アキラをヒカルの方へ引き寄せた。そうして、
甘えるようにキスをねだった。
アキラは、ヒカルの望むままに優しくキスをした。ヒカルが満足そうに微笑む。

 ヒカルが自分についてきてくれて、嬉しかった。
――――それとも、キミがボクのところに来てくれる?
駆け引きめいた言葉を口にした瞬間、後悔した。ヒカルが来ることを期待したわけでは、
なかったが、彼の気持ちを試したのも事実だ。ヒカルが、アキラのことをどう思って
いるのかを知りたかった。卑怯だと思った。
「でも、これがボクだ……」
アキラは呟いた。ヒカル以外の者が見えなくなってしまうのだ。
「な…に…?」
「何でもないよ…」
そう言って、微笑むと、アキラはヒカルの胸に、そっと口づけをした。


(50)
 「あぁ!」
ヒカルが胸を反らせた。アキラの舌がヒカルの胸の突起を舐ったからだ。
「あ…や…あん…」
アキラが執拗に同じところを何度も吸う。乳首の紅い色が、更に鮮やかに染まった。
「とうや…とうや…!」
アキラの手が、ヒカルに新たな快感を与え始めた。胸元を唇で責ながら、手では、下半身を
嬲っていた。ヒカルが、アキラの頭を掻き抱いた。
「やぁ…でちゃうよぉ…!」
ヒカルはそう叫ぶと同時に、身体を震わせた。アキラの手の中に、白いものをほとばしらせた。
「あ…あ…」
まだ小さく震え続けるヒカル自身を、アキラはキュッと扱いた。残っていたものが押し出されて、
アキラの手を更に汚した。
 大きく胸を上下するヒカルの目の前で、アキラは掌を舐めて見せた。ヒカルは、真っ赤になって
目を逸らした。そんなヒカルに笑いかけると、アキラは殊更大きく音を立て、全部奇麗に
舐めとった。
 アキラは、机の引き出しから、いつも使っているローションを取り出した。それを手に
満遍なく塗り、まだ、顔を背けているヒカルの腰を抱え上げた。
 ヒカルの身体がぴくんとはねた。
「あ…」
アキラは指をヒカルの中へ沈ませた。
「ん…んん……!」
時間をかけて、丁寧に中を愛撫した。すると、ヒカルの身体から、力が抜けてゆく。
アキラは、自分をそこに宛うと、そのまま一気に押し進めた。



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