失着点・龍界編 46 - 50


(46)
それまで優しかった人物像が豹変した沢淵に三谷は抱かれた。3人の男達に
押さえ付けられてめちゃくちゃにされた。男達に交互に姦わされ、どんなに
泣き叫んでも沢淵は止めてくれなかった。
「仕事」は倍に増やされ、金のほとんども巻き上げられた。
ようやく沢淵の本性に気が付いたがもう遅かった。
三谷はもう辞めたいと言ったが、聞き入れてもらえなかった。
反発して店に出向かなかったりすると容赦なく「制裁」を加えられた。
でも完全には逃げられなかったのは恐怖ばかりだけではない。
少なくとも囲碁を教えてくれている時の沢淵は厳しかったが真剣だった。
「お前はもっと強くなるぜ、それは間違いない。オレが強くしてやる…。」
自分に居場所を与えられたような気がした。それは誤った場所だと
分かっていたが、少なくとも誰かの事を忘れる事が出来るような気がした。
その誰かが、今自分の目の前にいる。
もう接点がないと思っていたそいつと、自分は今繋がっている。
熱い接点と呼吸の中で三谷は心の中で叫んでいた。
―オレは、お前と囲碁を打ちたかったんだよ…!
それを口にする資格が今の自分にはない事も、分かっていた。
「くっ…!!」
三谷の体の奥が痺れ、電流が走ったように全身が震えた。到達して
ヒカルの中に放った三谷が我に還る。ヒカルもとうに三谷の手の中で果て、
半ば気を失うように三谷の体の下でぐったりとしていた。


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おそらくヒカルは限界を超えた事を何度か三谷に訴えたのだが、三谷の耳に
届いていなかったのだろう。ヒカルの頬に幾筋もの汗と涙が伝わり落ちた跡が
残されていた。無意識に三谷は指でそれらの痕に触れようとして手を
伸ばしたが、ヒカルに払い除けられた。
「…フッ」
三谷は自分を嘲うように笑みを浮かべてヒカルから体を離した。
疲れ果てたという表情でヒカルはズボンを履いた。
「早く塔矢のところに連れて行けよ…」
「…さあね。」
三谷はヒカルから顔をそらし服を身に着けながら答える。
ヒカルが驚いたように三谷を見る。
「何だと…?」
「オレはそんな話、知らないから」
「…三谷イ!!」
ヒカルはカッとなって三谷にとびかっかり、殴った。
さらに馬乗りになって殴り続けようとした。
「なんてガキだ。」
モニターを見ていた男達が慌てて部屋に入って来てヒカルを
押さえ付けようとした。
「うわああああーーー!!!」
ヒカルは男達に枕を投げ付け、一人に食らい付いて床に倒し手に噛み付いた。
「いでででで!!」
もう一人が後ろからヒカルを捕まえて引き離して両腕を後ろにひねり上げた。


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それでもヒカルは足を振り上げ暴れ続けた。手を噛まれた男がヒカルの顔面や
腹部を激しく数発殴った。
「ぐ…ふっ…」
ヒカルは腹を押さえて崩れるように床に膝をついた。
「か、顔は止めとけ。沢淵さんのお気に入りだ。」
ヒカルの後ろにいた男が声をかける。だが次の瞬間、「ぎゃあ!」と叫んだ。
ヒカルが今度はその男の足にしがみついて太ももに噛み付いて
来たからだった。
「いい加減にしろこのガキ!!」
手を噛まれた男がヒカルの髪を掴んで立たせるともう一発顔を殴り、
その衝撃でヒカルは壁に叩き付けられた。そのまま二人の男から腹や背に
数回蹴りを入れられようやくヒカルは動かなくなった。
三谷はただ呆気にとられたように呆然とその一部始終を見ていた。
…まさか、進藤の奴…、
「やれやれ、顔に似合わずとんでもないガキだな…」
「おとなしくしていれば今日はこれで済ますところだったが…
沢淵さんのとこに連れて行くか…。」
床にうつ伏していたヒカルの口元が小さくニヤリと笑むのを三谷は
見逃さなかった。
…そんなに塔矢のことを…進藤…
三谷は、ヒカルが一か八か塔矢の居る所に連れて行かせるためにわざと
暴れたのだと分かった。


(49)
棋院会館の資料室で緒方はようやく沢淵の名を見つけた。古い記録で
アマチュアの学生チャンピオンであり、他にもありとあらゆる賞を手にして
いた。一流大学に進学し、武道の大会にも顔を出す文武に秀でた優秀な
学生だったようだ。だが沢淵はプロにはなれなかったのである。
最後のチャンスと自分で言っていたプロ試験に落ちた時の沢淵の落胆振りは
古参の棋院会館の職員の記憶にも残っていた。
どんなに才能があってもプロの世界とは縁がない者たちはいる。
だからと言って、沢淵に同情する事は出来ない。
緒方はPCで沢淵の所有する不動産をリストアップする。商才はあったようで
都内にいくつかのビルとマンションを所有しているようだった。数多くの
アマチュアの囲碁大会のスポンサーにもなっていたことがあるようだ。
うさん臭い噂がありながら表ざたにならないのにはそういう
表の顔の部分があるからだろう。
「進藤が言っていたマンションは、どれだ…?」

ヒカルが連れ出される時、三谷は残された。相手をする客が居たからだった。
「もうすぐ一時間が経つ…」
ビルの前で和谷は焦りを募らせる。緒方とまだ連絡がつかなかった。
「もう一度棋院会館にかけてみるか…」
最初にかけた時は、緒方は来ていないと言う返答だった。
その時伊角からヒカルが車に乗せられて出て行ったという連絡が入った。
「何だって!?」
「あっという間で…ナンバーは一応見たけど…あっ!」
和谷に電話しながら伊角は一人で建物から出て来た三谷を見つけた。


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伊角は和谷に連絡を取りつつ三谷に声をかけようと近付いた。三谷は直感的に
ヒカルの仲間だと思ったが、とっさに走り出して逃げようとした。
伊角から連絡を受けた和谷が先回りして追い掛けその後を追った。
「おい待てよこのヤロウ!!」
裏通りを相当走りまわった末に和谷が追い付き、ようやく捕まえる。
「…進藤をどこに連れて行ったんだ!?知っているなら教えろよ!!」
和谷は三谷の襟首を掴んで建物の壁に押し付け激しく揺する。
「…ずいぶん友達思いなんだな、あんたらって…。」
「何だと…!?」
「…そんなに進藤の事が大事なのか?」
「…ああ、そうだよ。大事だよ。だから何だって言うんだよ。
いいから早く答えろ!!」
荒い呼吸の中で和谷が睨み付けると三谷が可笑しそうにクスクス笑い出した。
「…ずいぶん真剣なんだな。…そうだよな。あいつが真剣だから…だから、
あいつに関わった奴もみんなそうなるんだな…。」
その独り言のような三谷の言葉や態度が理解出来ず和谷は困惑した顔になる。
そこへ息を切らしながら遅れて追い付いた伊角が、ようやく棋院会館で緒方と
連絡をとれた事を伝えて来た。和谷は緒方と2〜3やり取りをして目の前に
居るのが三谷だと理解した。
「マンションの場所を言えよ、三谷。知っているんだろ!?」
「…オレだって詳しい場所は分からない…。港の近くだとしか…」
和谷は三谷に携帯を渡して直接緒方と話しをさせた。緒方はその三谷からの
情報を元にマンションの場所を特定した。



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