失着点・展界編 46 - 50
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室内に低く静かにモーター音が響く。その音に混じってまだ幼い熱い吐息が
繰り返されていた。両手首を掴まれたまま、仰向けにあるいはうつ伏せに
されてヒカルの上半身はくまなく緒方の舌に愛撫され続ける。
それはまだ、敏感な胸の突起には触れていない。未熟な情念を焦らして
楽しむように、緒方の舌はそこへ近付きかけては遠のく。
「や…あっ…っ」
その段階ですでにヒカルの体は十分すぎる程に興奮させられていた。
もう長い間皮膚を通してじわじわと刺激されていた。エンジンを温められる
ように、体内の全てのそういうスイッチを入れられて行くように。
同じ首筋へのキスでも最初の頃にされたものと今ではまるで違った。
熱い吐息がかかるだけでザワリと身の毛が立ち、舌が触れて来ると電気が
走るような切ない刺激が走る。自然と喘ぎ声も大きくなる。
「はあっ…アッ…!!」
「…感度が良いんだな…。」
羞恥心を煽る緒方の言葉によって更に感度は強められる。
ヒカルは首を振って、緒方に目で何かを訴えようとした。
若い性が早く結論を求めている。覆いかぶさっている緒方の腹部あたりで
固く主張し始めているものがいる。
「…我慢が足りない子は、嫌いだな。」
緒方の舌がくっきりと膨らみ上がった胸の突起を捕らえた。
「…っ!!」
ビクンッと激しく反応しながらも、緒方に反発するようにヒカルは声を押さえ
歯を食いしばって気を失いそうな快感に耐えた。
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緒方はそのヒカルの反発を楽しむ。舌先を尖らせ執拗に突起を弾き、舐める。
「…んっ…っあ…っ」
我慢出来ずに体をよじってヒカルが逃れようとすると、緒方はヒカルの両腕を
頭の上の方にあげさせ片手で両手首を持って固定し、曝け出されたヒカルの
まだ産毛の延長のようなものしか生えていない脇の下にかぶりついた。
「やだっ…!」
ヒカルの声を無視して愛撫は脇の下から乳首をなぞるルートを繰り返す。
くすぐったさと快感の板挟みにヒカルは悶絶し足をばたつかせる。
二つある乳首の、今、そうして刺激を与えた方を指で摘み、緒方の舌は
もう一方に向かう。舌と指は左右交互に数度入れ替わり、しばらくの間、
大きく乱された悲鳴が混じりのヒカルの吐息が漏れ続けた。
「緒方…せ…もう…」
下腹部にはまだ何もされていないにもかかわらずヒカル自身は両乳首への
同時の刺激に耐えられず呼応して脈打ち、接している緒方の服を雫で汚す。
「もう…ダ…、…イ…ク…」
その時突然緒方がヒカルから離れた。ふいに自由になった両手でヒカルは胸を
抱え、ハアハアと息を乱して体を縮こまらせ長椅子の上に横たわっていた。
「…?」
ヒカルが頭を擡げて緒方を目で追う。
緒方はシャツのボタンを取り払いながらキッチンに向かい、冷蔵庫から
缶ビールを出す。それの封を開け一気に呷ると、ヒカルに指示を出した。
「…バスルームに入れ。」
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「え…?」
今さら、と思わないでもなかったが、何かを問えるムードでもなかったため、
緒方の顔色を気にしつつヒカルはバスルームに入った。緒方はビールの残りを
飲み干すと空き缶を握り潰した。
少し冷たい程のシャワーを顔から浴び、ヒカルはひと心地ついた。
シャワーを浴びたらもう服を着て帰りたいと思う反面、続きを求めている
自分が居る。緒方を怖いと思う自分と、その緒方に全てを任せ、自分が
どこまで行き着くのか知りたい、そんな自分がいるのだ。
…知らない内に自分の中に何かが巣食っている、そんな気がした。
「…誰がシャワーを浴びて良いと言った。」
ヒカルが驚いて振り返ると、上半身裸の緒方が入り口のところでこちらを
睨んでいた。手に何か容器のようなものを持っている。
「え…?だって…、」
怯えたようにヒカルはシャワーを止める。緒方がヒカルを壁に追い詰める
ように立った。スーツを着ている時には良く分からない、意外に鍛えられた
厚い胸筋がヒカルを威圧する。
「壁に手を着けろ。」
不安げな視線で緒方を見上げながらヒカルは従った。緒方はヒカルの細い
ウェストを抱えこむと手にした容器の口をヒカルのある部分に宛てがった。
「…!?あ…っ」
何かがまだ少し腫れが残って膨らんでいる狭門の中を突き通って行く。
「ああっ…や…あっ…!」
狭門の奥のヒカルの体内に何か冷たい液体が注入されていった。
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あまりの事に逆にヒカルは体を動かす事が出来なかった。ただ腸壁を液体が
満たして行く感覚に神経が集中していく。ガクガクと体が震えて、膝の力が
抜ける。壁に着いた手がそのまま滑り落ちて、緒方の腕に支えられて床に
四つん這いになる格好になった。緒方は容器の腹を持つ手に力を入れ、
全てをヒカルの中へ入れ終えると容器と一緒に手にしてきたものでヒカルに
栓をした。
「ああっ!」
何か硬質な物が押し込まれて狭門を塞がれ、緒方が腕を離すとそのまま
ヒカルは床に崩れた。手でそこを触ると異物が顔を覗かせているのが分かる。
腸の中は突然の大量の外部からの物質によって激しく刺激されていた。
「オレが良いと言うまでここにいろ。ただしここを汚したら御褒美はやらん
からな。」
「緒方…さん…?」
床に横になっているヒカルをそのままにして緒方はバスルームを出て、ドアを
閉める。冷蔵庫から2本目のビールを出し呷る。そして呟く。
「…何をオレは熱くなっているんだ…、あんな子供相手に…。」
タバコに火を点け、カウンターにもたれ床に座り込んでゆっくり吹かす。
半分程灰にした頃、バスルームのドアが少し開き、床に近い部分からヒカルが
顔を出した。苦しげに青い顔をしている。
「…緒方さん、…お願い…、トイレに…」
緒方はタバコを消してドアのところに行くと無情にもバタンと閉め、灰皿を
持ってドア近くに座り新しくタバコに火を点けた。しばらくバンバンと
力なくドアを手で叩く音がしていたが、やがてそれがなくなり、中で啜り泣く
声がした。タバコを吸い終わる頃には静かになった。
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「…そろそろ限界かな…。」
緒方はバスルームのドアを開けた。すぐそばでヒカルは床に寝転がって
苦しげに息をしていた。顔面は蒼白で、全身に脂汗が浮き出ている。
緒方はヒカルを抱き起こすとトイレに運び、便座を上げた状態のところに
向こう向きに座らせた。
「…だ…、や…だ…」
蚊の鳴くような声でヒカルは抗うが体のどこにももう力が入らなかった。
緒方の指が栓をひねるようにして、抜いた。ヒカルが悲鳴をあげた。
同時に水を流し、ヒカルの体内にあったものが排出され吸い込まれて行く。
「うう…うっ」
ヒカルは嗚咽した。自分にされた事が信じられなかった。
腸が痙攣するのが治まるのを待って、緒方も全裸になりヒカルと共に再び
バスルームに入る。シャワーで体を洗われている間中と、体を拭かれ
抱え上げられてベッドルームに運ばれるまで、ヒカルはずっと体を震わせ
泣きじゃくっていた。
「…や…だ、…もうや…だ…」
ベッドに寝かされ、しゃくりあげるヒカルの涙を緒方は指でそっと払う。
額に張り付いた前髪を梳き、額に優しくキスをしてヒカルを落ち着かせる。
「…オレが憎いか…?」
ヒカルは返事をしなかった。ただ、ショックからは立ち直ったのか、緒方に
抗議をするような目つきを返して来た。
緒方はフッと笑うと、そのヒカルの目もとを吸った。
「キミは強い子だ…。こんなこと位で、女の子みたいに泣いちゃいけない。
そうだな。」
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