とびら 第六章 46 - 50
(46)
「……はぁっ……ん、ぁ……」
アキラと和谷の、二人の舌が、腕がヒカルを翻弄する。
「んんっ……」
同時に二つの乳首を口に含まれたことなどない。ヒカルは唇を噛んだ。
「進藤のなか今ひくついたよ。すごい感じてるんだ……?」
ヒカルを貫いたまま、言わずもがなのことをアキラは言う。
首筋から舌を這わせながら、和谷はヒカルの唇に吸い付いた。ヒカルはその頭を抱える。
唾液が口のはしからこぼれ落ちた。
唇を離した和谷に向かって、ヒカルは口を開いてみせた。和谷は怪訝な顔をする。
ヒカルは手を伸ばして、猛っている和谷のペニスに触れ、それから自分の口を指した。
理解した和谷はヒカルの頬をつかんで横に向けさせると、ペニスを口内に侵入させてきた。
「ぐっ、ん、くぐ……っ」
くぐもった声が漏れた。和谷の硬くなったそれが喉の奥に当たる。
苦しかったが、ヒカルの望んだことだった。口全体で和谷のペニスを愛撫する。
くびれた部分をつつき、舌全体を使って裏の筋を舐め上げた。
「しん……いぃ……ふぅっ……いっ……」
和谷が切なそうに声をあげている。しかし何度も出しているのですぐには達しない。
ヒカルはアキラと和谷のその袋にさわったが、ほとんど入っていないのではないのかと思う
ほどそれはしぼんでいた。中身は全てヒカルに注がれたのだ。
それなのに二人とも未だに勃起するとは、体力があると感心してしまう。
そう言う自分のものも、まだ勃ちあがって先端から少しばかりの精液をしたたらせている。
「ひぁ……っあ、あ、いぁっ!」
「ぼうっとしてちゃダメだよ。ほら、もっとよがって見せて」
おだやかな動きが突如、荒々しいものに変わり、ヒカルはアキラに視線を据えた。
アキラはまるで舐めるような目でヒカルを見てくる。
「口に和谷のペニスを咥えて、こっちにはボクのペニスを咥えて……いい眺めだよ」
その揶揄に、いつものヒカルなら怒るところだった。だが今回は違った。
ヒカルは笑みを浮かべると、見せ付けるように自分のペニスを握りこんだ。
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指で輪をつくって、それを上下にすべらせる。ぴくんとペニスが反応するたびに、ヒカルは
自分のなかにいるアキラを包み込むように締めつけた。
「あ、しんど……っおっ……」
アキラがうめき声をあげ、何とか踏みとどまろうと眉を寄せている。
ヒカルは開いていた足をアキラの腰にからませ、引き寄せた。
意識してアキラのペニスに刺激を与えながら、ヒカルは和谷のそれにも口戯をほどこす。
和谷も苦しそうな吐息を漏らしている。
三人のペニスが同時に膨張した。
「あぁっ……!」
いっせいに声を上げ、射精した。三人がともに達したのはこれが初めてだった。
飲みにくい体勢だったので、ヒカルは和谷の放ったものを口から垂らしてしまった。
ヒカルの半面が精液で白く濡れた。
その顔のまま、ヒカルは好戦的なまなざしを二人に向けた。
「……なあ、同時に入れるなんてこと、できないかな……?」
二人はぎょっとしたようにヒカルを見てくる。そして恐る恐るアキラが言ってきた。
「進藤……さすがにそれは……無理だよ」
「そぉか……」
「まだ、満足できないのか……?」
「つかれた」
不安そうにうかがう和谷にすげなく言ってやった。
「おまえたちは?」
二人はお互いを見ると、ためらいながらも肯定した。そしてどちらからともなく、ヒカルを
あいだにはさんで寝転んだ。ヒカルに呼びかけてくる。
「進藤、こっちを向いてよ」
「俺のほうを向けよ」
どちらに顔を向けたらいいのかわからないので、ヒカルは天井を見ていた。
するとそれを咎めるように、アキラと和谷がヒカルの肌を撫でさすってきた。
「も、ん、ぁっ、はぁ……っ」
痛みにも似た快感にヒカルは身体を大きくよじり、くねらせた。
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両側の首筋を柔らかいものが這う。湿った音とともにアキラの声が耳に入る。
「きみはまだ、したりないんだろう? 同時にボクたちのを欲しがるくらい」
ヒカルは二人を挑発するようなことを言ったことを後悔した。
身体が敏感になっている自分のほうが、明らかに分が悪いのだ。
「やっ……あぁ……」
尻の入り口に息が吹きかかる。いつのまにか和谷がそこをのぞきこんでいた。
「あんだけしたのに、ちっとも切れてないな。充血して赤くはなっているけど」
不意にアキラがヒカルの背を起こすとそのまま抱えた。
「とうや? なに……」
アキラはヒカルの膝裏に手を入れて、左右に開かせた。
「ほら、入れてやってよ和谷」
「おまえに言われなくても入れるよ」
「おい! おまえら……っ! つかれてるんじゃなかったのかよっ」
叫ぶヒカルを無視して、和谷は後孔にペニスの先端を当ててきた。
和谷のそれは硬さは衰えてはいたが、まだ張りがじゅうぶんにある。
ヒカルは次に自分を襲うだろう衝撃を予期して、息を詰めた。
だが和谷は無理やり挿入してはこなかった。ゆるゆるとラインに沿って動かしている。
すると自分のそこが、まるでそれに合わせるように伸縮しだした。
すでに入る前からヒカルは和谷を感じていた。身体がいやというほど記憶しているからだ。
「ふ、ん……っ」
和谷のペニスを徐々に飲み込んでいく。
自分のなかを押し広げる圧迫感は、もうほとんど感じられない。
すっかりそこが緩んでいるのかと思うとヒカルはおかしくなった。たくさんした証拠だ。
(ずっとこのまま締まらなかったら、どうしよう……)
栓でもするかと考える。ヒカルは少し冷静だった。もうこの状態では、挿入されただけでは
それほど感じないからだ。和谷が内部を―――自分を掻き乱すのを、待つ。
アキラが見ていようが、ヒカルは和谷をむさぼった。それは和谷が見ていても同じだ。
二人はこんな自分をどう見ているのだろう。
もしかしたら今度こそ本気で幻滅しているかもしれない。だがそのほうがいい気がした。
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ヒカルはアキラの手を払うと、自分で足を広げた。
淫蕩な自分を二人の脳裏に刻みつけてやりたかった。
「もっと……あっ、く……もっぉ……っん」
激しく揺さぶられるがアキラが抱き締めているので、それほどヒカルは揺れなかった。
和谷が腰を抱えて角度を変えて突いてくる。
ヒカルはだらしなく舌を垂らし、あからさまな喘ぎ声をあげた。
口を開けていたが、もうそこはからからに渇いていたので、よだれは出なかった。
アキラが自分の肩にあごをのせ、その様子に見入っている。
至近距離で観察されることは羞恥心よりも興奮を呼んだ。
ヒカルはわずかな気力をふりしぼって、懸命に和谷の動きに応えた。
「くぐっ、うっ」
低くうなると和谷はその精を放出した。叩きつけるような勢いはなかった。
和谷はヒカルの腰に抱きついて、肩を大きく上下させた。
もう本当にこれで終わりだ、と思った。それは情事のことだけではなかった。
何かが終わったのだ。しかし頭は霞がかかっているようでうまく働かない。
「進藤」
不意にアキラが強引に自分のほうに首を向けさせた。
「……何だよ……」
「和谷とボク、どっちがいい?」
その質問にヒカルは少し驚いた。こんな姿をさらしても、まだ二人は自分を欲しているのだ。
「……オ、レは……」
「どっちも嫌? それともどっちも欲しい?」
「……どっちもって言ったら?」
和谷がその言葉に反応した。鋭いまなざしを、自分にではなくアキラに送っている。
アキラはヒカルの髪に指をからませながら微笑した。
「仮定はいらない。ボクはただ一つの答えが聞きたいんだ」
ヒカルはかまわないと言ってほしかった。
だがその口調から、もうアキラはその言葉を口にしないだろうことが察せられた。
心細くなって和谷を見ると、和谷はまるで他人事のように口をつぐんだまま目線を外した。
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「わっかんねぇよ……」
そうつぶやくと、アキラはなぐさめるように頬を撫でてきた。
「本当はもう、答えが出ているんじゃないのか?」
そう言われると、そんな気にもなってくる。たしかにもう自分は決めているのかもしれない。
だがそれが分からないのは、なぜなのだろうか。
頭が重い。考えてもからまりあって答えを導けない。和谷がいきなり身体を起こした。
「もういいっ。こんなことしても意味がなかったんだ! 進藤、おまえは何か変わったか?
変わってないだろう? 塔矢、本当にこれは試してみる価値があることだったのかよ!?」
和谷はアキラを責めたてるように激昂した。しかしアキラは言い返さなかった。
一方ヒカルは和谷の“何か変わったか”という問いを胸のなかで繰り返した。
(オレは和谷の言うとおり、変わっていない。オレだって二人に抱かれれば、選べるんじゃ
ないかって、心のどこかで思ってた)
ほんのささいなことで自分は変われそうな気がする。なのに。
(何で変われないんだ。何でわからないんだ。何かがつっかえてるみたいで……)
ふと、佐為のまみを思い出した。碁を打つときの熱く、そして静かなあの目つきを。
初めてそれを意識したのは、碁会所で塔矢行洋と相対したときだった。
碁打ちだけが持つ目。
自分だけ仲間はずれにされたような気分だった。
今の自分の目はどうだろう。佐為と同じような目をしているだろうか。
「和谷、オレの目、どう思う……?」
「え? 目? どうって……」
ヒカルは和谷の瞳を見つめた。自分が映っている。だがよくわからない。
今度は振り返って、アキラの瞳を見ようとした。しかしアキラはヒカルを見たとたん、それ
までの労わるような雰囲気を一変させた。
「自分で決めろ。いつまでもそんな影に頼るな!」
佐為に頼る? 自分は頼っているのだろうか? それすらもわからない。
(もぉ、いいや……)
張っていたものが切れた。ヒカルはゆっくりと布団にくずれ落ちた。
和谷の怒ったような声が聞こえたが、どうでも良かった。
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