Linkage 47 - 48


(47)
 マンションから出て高速に乗るまでは多少もたついたものの、都心から横浜へ向かう東名高速は緒方の予想以上に
スムーズに流れおり、勢いアクセルを踏み込む脚に力が入る。
アキラはそんな緒方の運転技術を信頼しているのか、じっと窓の外に見入っていたが、ふと緒方の方を振り向くと、
口を開いた。
「いまかかってる曲、なんて言う曲ですか?聞いたことがあるような気がするんですけど……」
「この曲かい?"SOMEONE TO WATCH OVER ME"……ガーシュウィンのバラードだよ。いろんなところで使われているから、
アキラ君も聞いたことがあるだろうな。今歌っているのはエラ・フィッツジェラルドという有名なジャズ・シンガーだ」
 アキラは緒方が教えてくれたタイトルを小声で呟いてはみたが、意味がわからないのか首を傾げる。
「ハハハ。小学生には難しいか。まあ映画のタイトルだと『誰かに見られてる』なんて物騒な訳になっていたが、
本来は『誰かが見守っている』という意味なんだろうな」
「それって、なんだかいいですね。緒方さんみたいだな……」
 前方を見ていた緒方が、一瞬アキラの方を見遣った。
「オレみたい……?どういう意味だい?」
 アキラは再び前方に視線を戻した緒方の顔を覗き込むと、クスクスと笑う。
「だって、今夜は緒方さんがボクのことを見守ってくれるでしょ!」
「なるほど。アキラ君に一本取られたな」
 緒方は笑いながらハンドルを握っていた左手を離すと、アキラの頭をポンポンと軽く叩いた。
「さて、そろそろ出口だ。結構早かったな」
 頷くアキラを横目に、緒方は左にウィンカーを出した。


(48)
 ライトアップされた絢爛豪華な関帝廟を見て回った後、2人はアキラの希望で、大通り沿いの有名店ではなく、
脇道を入った庶民的な店に入る。
テーブルに並べられた大根餅や皮蛋豆腐を見た瞬間、ビールを注文したい衝動に駆られる緒方だったが、
グッと堪えてアキラと同じ烏龍茶で我慢し、和やかに食事を終えた。
 マンションに帰宅した頃には9時近くになっていた。
浴槽に湯を溜め、アキラに先に入浴するよう勧める。
「……緒方さん、一緒に入らないんですか?ボクが小さい頃、ウチでよく入ったじゃないですか」
「アキラ君のところとウチじゃ、広さがまったく違うぞ。アキラ君が小さい頃なら、ここでも十分余裕を
持って2人で入れただろうが……」
 苦笑しながらそう話す緒方に、アキラは「そうかぁ……」と残念そうに呟くと、素直に緒方の勧めに従った。
 アキラが浴室に消えると、緒方は慌ててアキラのパジャマの代わりになりそうな服を探し始める。
クローゼットの中を掻き分けて、ようやく厚手の柔らかな白いコットンシャツを引っ張り出したはいいが、
下に履かせるものがない。
よくよく考えてみれば下着もない。
散らかったクローゼットの前で仁王立ちになりながら、緒方は唸った。
「緒方さん、どうしたんですか?」
 入浴を終えたアキラは、腰にバスタオルを巻いた姿で緒方の前に現れた。



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