白と黒の宴4 47 - 48


(47)
「んっ…」
ビクリとアキラの四肢が反応する。社は名残惜しそうに両方のそれらを愛撫し、
鎖骨から首筋へと流し、最後にアキラの唇にそっと重ねる。
その途中からすでに柔らかな寝息がアキラの唇から漏れていた。
間近でみると両の目の下にうっすらと蒼く隈が出来ている。
「…何でこいつ…こんなに疲れ果てているんやろうな…欲しいものはなんでも
手の中にあるやろうに…」
このままこのベッドに寝かせると体が冷えると思い、社はもう一つのベッドの布団を剥いで
アキラの体を抱きかかえ、そちらに移動した。
選手らは全てツインルームが与えられていた。ゴールデンウィークでもありシングルは
確保出来なかったためだろう。
しだいに高かった体温が治まっていくアキラの体を抱きながら社も眠りにつく。
できればこの時間が長く続いて欲しいと社は願った。
だがそれは短い眠りだった。
暫くして社が目を覚ますと、傍らにアキラはいなかった。
アキラのニットのセーターやスラックスがなくなっている。
彼が部屋を出てどこに行ったのか考えるのは止めた。
アキラが居た場所のもう冷えてしまったシーツをそっと撫でた。

エレベーターの向こうにちょっとしたロビーがある。大きな窓があり部屋とはまた別方向の
景色を広く眺める事ができる。アキラはふらふらとそこに向かっていた。


(48)
社の隣で、アキラは今までになく深く眠りに落ちた。そんなに長い時間ではなかったが、目を
覚ました時熱が抜け落ちるようにアキラの中の嵐はおさまっていた。
おそらくそれは一時的なもので、いつかまた吹き荒れるだろう。だがその時はその時だ。
一生それと向き合っていくしかない。他の誰かを巻き込みながら。
隣で眠っている社の横顔を見ながらぼんやりとそう考えていた。
掘りの深い端正なその横顔が一瞬ある面影と重なって、アキラはそおっと顔を寄せ
唇を触れ合わせかけた。
その時なにかふと気配を感じた。
廊下を誰かが横切っていったような気がして、引き寄せられるようにアキラも起きだし、
服を着て廊下に出た。足音を立てぬように、その相手に気付かれないように進んだ。
そうしてエレベーターの奥のラウンジまで来た。
夜景を見つめて立つヒカルがそこにいた。

アキラは息をひそめ、しばらくの間物陰に隠れるようにしてそのヒカルの後ろ姿を見守った。
白いTシャツにラフなジーパンを着込んだだけのその少年は、それでも空の端が白くなりかけた
都会の街を見下ろす様は深く何かを決意し、今にも左右に長く輝く翼を広げてビルよりも遥か
高くへ、人の世を超えた世界へ飛び立とうとしているようだった。
後ろ姿からでもヒカルの瞳が空の彼方に注がれているのがわかる。
アキラには今の幼いヒカルは仮の姿で、自分よりももうずっと長く碁の世界で息づいて来た
大きな存在に見えた。
「…sai…」
ぽつりとアキラは口の中で小さく呟いた。



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