交際 47 - 48


(47)
 三人で囲む食卓は最悪だった。アキラと社―――――睨み合う二人の間に挟まれて、
ヒカルはいたたまれなかった。こうなった原因は自分にある。きっと、アキラはもう知っているのだろう。
ヒカルが社とセックスをしてしまったことを………。
 社は自分を本気で好きだと言っていた。それを聞いた瞬間、ヒカルは社と寝たことを心底
後悔した。自分はアキラが好きなのだ。それなのに、社と関係してしまった。それは、
彼の気持ちを弄んだことになるのではないだろうか。
 結果、ヒカルは傷つき、アキラも社も傷ついた。北斗杯に向けて三人のチームワークは
バラバラ。志気も体調も最低だ。これは全部自分が招いたことなのだ。情けなくて涙が出そうだ。
 ヒカルは、二人に話しかけようと何度か口を開きかけたが、喉の奥に何かが詰まったような
感じがして声が出なかった。閉じたり開いたりしてパクパクしている口の中に、かわりに
パンを押し込んだ。乾いたパンの感触が舌に張り付き、ますます、話しづらくなった。味なんて
まるでわからない。

 「進藤、レセプションの前に一度帰るんだろ?何時に出るの?」
重い空気に背中を丸めて、パンを囓るヒカルにアキラが話しかけた。不意に話しかけられて、
ヒカルは面食らってしまった。ビックリしてアキラの顔をマジマジと見つめる。
 アキラの声は優しい。口元には笑みさえ浮かべていた。
「え………と………ひ、昼前ぐらい………」
ヒカルはモゴモゴと口ごもった。
『塔矢………怒ってネエのかな………?』
ヒカルは複雑な気持ちだった。さっきまで、アキラが怖くて仕方がなかったのに、こんな風に、
笑顔を向けられると逆にどうしていいのかわからなくなる。アキラが怒らないのは、自分のことは
もう、どうでもいいと思っているのではないだろうかと、変なことを考えてしまう。
『オレって、勝手だな………』
ヒカルは俯いて、またパンを口の中にせっせと押し込んだ。


(48)
 朝食を済ませ、座卓の上を片していると、社が横に同じように屈んで卓の上を拭き始めた。
ヒカルは何を話していいのかわからず、ただ、俯いてひたすら作業を続けた。と、いっても、
そんなに散らかっているわけでもない。今はただ、右のものを左に置いたり、ゴミを出したり
入れたり、気まずい空気を誤魔化すために手を動かしているだけにすぎなかった。

 「進藤。」
出し抜けに名前を呼ばれて、手に持っていた食器を座卓の上に滑り落とした。
「あ……やば…!」
慌てて、拾い上げ、それを翳して見る。派手な音だった割には、欠けてもいないし、罅も
入っていなかった。
「スマン…悪かったな…」
社の言葉にヒカルは反射的に首を振った。声をかけられたくらいで、皿を落とすほど驚く
なんて…………恥ずかしくて顔が火照った。
 そんなヒカルの様子を見て、社は少し困ったように笑った。苦笑いとも違う、ヒカルが
可愛くてしょうがないと僅かに細められた目が語っている。
「ちゃうねん………昨日のこと…」
「…………え……?」
「乱暴なまねして………せやけど……オレ、本気やから……」
何でもないようなことのように、社は言った。さらりと言った言葉の裏には、彼の想いの
すべてが込められていたのが、こういうことに疎い世間知らずなヒカルにもわかった。



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