| Shangri-La 48
 
 (48)
ヒカルの声は、いつかのように穏やかで優しかった。
 顔を合わせるのが怖くて仕方がなかったアキラは、その優しさに驚いた。
 
 「どうしたんだよ。オレの顔がどうかした?オレの後ろになんか―――」
 ヒカルはそこで息を飲み、大きな動作で後ろを振り返った。
 何もないことを確かめ、上も周りも見回し一瞬渋い顔をしたが
 すぐその色を消し、アキラに向き直った。
 「何もいないじゃん、ほら」
 ヒカルはアキラの腕を取り、ベッドに引き上げ腕の中に収めた。
 「大体なんでオマエだけ服着てんだよ…なんか邪魔」
 呟きながら、ヒカルは慣れた手つきでアキラを剥いていく。
 アキラはどうしていいか分からなくて、ごめん、とだけ答えて
 後はされるがままでいた。直に触れる肌の温かさが嬉しかった。
 
 ヒカルは素っ裸にしたアキラを一度きゅっと抱き締めると、
 アキラの顔を覗き込み、指の背でアキラの頬を撫で上げた。
 
 この後、ヒカルが何を言うか心配でたまらない。
 アキラは目を閉じ、身を堅くしていた。心臓がきりきりと痛む。
 
 そんなアキラの頬には、うっすら一筋の線が
 眦から耳たぶの辺りまで見て取れた。
 ヒカルはアキラの涙なんて見たことが無かったし、
 泣くなんて想像もつかなかった。が、それは確かに涙の跡と思えた。
 ヒカルはそれを拭うように、舌と唇でそのラインをゆっくりとなぞった。
 
 
 |