無題 第2部 49
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「ヒカル、駅まで送ってってあげなさいね。」
母親にそう言われて、ヒカルはまだ人通りの少ない道を、アキラと肩を並べて歩いた。
今日は良い天気になりそうだ、と、空を見上げて、ヒカルは思った。
それから、ちらっと横のアキラを見上げた。
冷たい朝の風がアキラの髪をなびかせる。アキラは白い手をあげてその髪を押さえた。
アキラには首筋をぬける風の冷たさも心地良いようで、口元が軽くほころんでいる。
すっと伸びた背筋。バランスの取れた体つき。整った美しい顔。
絹糸のような真っ直ぐの黒髪を、風がサラサラと撫ぜていく。
気付いたら、ヒカルは立ち止まってアキラに見惚れていた。
アキラがそれに気付いて、振り向いて、言った。
「…どうしたの?」
「いや、おまえってキレイだなー、と思って。」
素直にそう答えたヒカルに、アキラは赤面した。
「なっ…なに言ってんだよ、いきなり…?」
「なんだよ、キレイだなんて、言われ慣れてるんじゃねーか?」
「そんなの、言われ慣れてなんか、いないよっ…!」
ムキになってそう答えるアキラの反応がなんだか可笑しくて、ヒカルはクスクス笑いながら言った。
「キレイだと思ったからそう言っただけじゃん?でも…、そうやって照れてるおまえって…カワイイぜ?」
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