| Shangri-La 49
 
 (49)
ヒカルの口づけを頬に受けながら、アキラは初めて泣いたことに気づき、
 また、帰るつもりが眠ってしまった自分を、かつてない程に呪った。
 何を言われても躱しきる自信は、まだない。
 「塔矢、どうしちゃったの?オマエ、おかしいよ」
 その言葉には棘もいらだちもなかったが、余裕のないアキラはそれに気づかなかった。
 ―――来た………!
 構えてはいたけれど、体中の血が一瞬で沸騰したような気がする。
 この後、何を言うだろうか?昨日のボクに何を思っただろうか?
 平静を装ってみても、これだけ身体が密着していれば
 動揺していることなんか、あっさりバレてしまうだろう。
 それでも努めて平静を装い、なにが、と聞き返した。
 一方ヒカルは、何がおかしいのか聞かれても、答えようが無い。
 全体的におかしかったんだもんなー…。
 「だって、えーと、ほら、今だって、なんでそんなとこで寝てんだよ?
 ベッドで寝ればいいじゃん。しかも一人で服まで着ちゃってさぁ…」
 (なんだ、そんなことか。そんなのボクだって知りたいよ…大失敗だ)
 「え?あ、そうだね、そういえば、なんでだろ…?」
 「それに昨日だって、一緒に風呂入るって言ったり、襲ってきたり、
 えーと、あと、んーと……」
 アキラが淫乱すぎて驚いた、とヒカルは思ったが、口にすることは憚られた。
 「襲った?襲うって…ボクが?キミを?」
 「そうだよ。オマエ、覚えてないの?」
 「確かに、キミとしたけど…ボクが、ボクから……?
 ちょっと待って、頭の中、整理するから…」
 「いっ、いいよ!覚えてないんなら、いいから、忘れてろよ」
 ヒカルの言葉に構わず、アキラは慌てて記憶を辿る。
 昨日の夕方からの記憶は、ヒカルを寝かしつけて、
 それでもヒカルが夜半に起きてしまっていたところで途切れ
 あとはただ激しく交わっていた事と、ヒカルに拒絶され後悔した記憶。
 
 
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