初めての体験 49


(49)
 「進藤、ちょっと話がある。」
研究会の後、師匠である森下がヒカルに声を掛けてきた。森下は少し怒っているように
見えた。『オレ…何かしたっけ…?』ヒカルは、きょとんとした顔で森下の顔を見返した。
 森下は苦々しげに言った。
「お前、最近、塔矢アキラと会っているそうだな?」
ああ…そのことか。と、ヒカルは思った。ただ会っているだけじゃなく、付き合っていると
知ったら、森下はどんな顔をするだろうか?それを想像して、ヒカルはクスクスと
忍び笑いを漏らした。
「…!?何が可笑しいんだ?」
「何でもありません。」
ムッとしている森下に、すました顔で答えた。
「どうなんだ?」
ヒカルのそんな態度が癪にさわるのか、森下はヒカルを厳しく問いつめてくる。
白状するまで帰さないといった雰囲気である。何だか可笑しかった。
逆に、ヒカルは森下に問い返した。
「先生…先生こそ、どうしてそんなに塔矢門下を気にするんですか?」
「そ…それは…!」
 ヒカルは、森下が塔矢行洋にライバル意識を持っていることをもちろん知っている。
そして、知っていて敢えて挑発するようなことを続けて言った。
「オレ、塔矢門下の人たちと仲良くしたいな…塔矢先生もすごい人だし…」
「何?」
ヒカルの挑発に森下は簡単に乗ってくる。
「オレ…この前、塔矢先生に一局打って貰ったんですけど…すごかったな…」
森下の顔色が変わった。自分の門下の秘蔵っ子が、ライバルを惜しげもなく褒めちぎる。
森下は行洋が嫌いなわけではない。ライバルであり、尊敬している相手でもある。だからこそ
負けたくないのだ。
 そんな森下をヒカルはさらに煽った。
「やっぱり塔矢先生は別格というか…違う気がする…」
「!!」
ヒカルは、森下を横目でチラリと見た。そして、「何を―――!」と怒鳴りかけた森下を制した。
「先生…オレと一局打ってください…塔矢先生よりすごいかどうか見せてください…」
と、言うが早いか森下の唇を奪った。



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