裏階段 アキラ編 49 - 50


(49)
その問いが、アキラが眠りにつくまでの間を差すのか、それとも
それ以上のものを差すのかは分からなかった。
「…それは出来ない。」
他の答え方がその時のオレには出来なかった。
「…人は、いつかは独りぼっちになるんだ。」
黙ったままのアキラの瞳がこちらを向いているのは分かっていたが、そちらを
見る事は出来なかった。部屋を出ようと思い、体を起こした。
その時小さくしゃくりあげる声がした。
振り返るとアキラが両目から大粒の涙を溢れさせていた。
「…アキラくん…」
自分に嫌悪するため息をついて、アキラの傍に戻り、指でアキラの涙を拭った。
「…悪かった」
アキラが首を横に振って両手を伸ばして来た。そのアキラの体を抱き上げるようにして
しっかりと抱き締める。
「ごめんよ。恐い顔をしていたかい?」
落ち着かせようとアキラの背中を撫でた。アキラは首を横に振り、
ただ力一杯オレの首にしがみ続ける。

「―恐い顔をしていたからではなく、緒方さんがあまりに淋しそうだったから、
だから悲しくなって泣いてしまったんです。」
随分後になってそうアキラから聞かされたが、
その時はとにかくアキラを宥める事に必死だった。


(50)
温かく小さな背中は震えて、アキラはなかなか泣き止まなかった。
そのアキラを抱くオレの背中側の襖を隔てた隣に六畳間の部屋がある。
といっても古い箪笥や戸棚類に半分程占領された物置きのような場所だ。
伯父が死んでこの家に来た時、先生には今のアキラの部屋を使うように言われたが、
もっぱらオレは奥のその部屋で寝起きし、碁盤に向かった。



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