黒い扉 5


(5)
皿とフォークごと、それを渡されるものだと思っていた。
だが白川は「あ、そう?よかった!」と明るく言うと、
満面の笑みで手掴みにしたモノをアキラの口に近づけてきた。
「えっ、あの、・・・むぁっ!」
唇の表面を擦って温かく巨大な物体がズルリと侵入してくる。
「ん、んっ!んっ!」
あっという間に喉の奥まで侵入を許してしまったそれは、
質量が大き過ぎて噛み切ることすら出来ない。
自分の意志とは無関係に、豊かな肉の香りと香辛料の刺激によって唾液腺が刺激され
サラサラとした液体が口内に湧き出る。
咄嗟に舌で押し戻そうとすると、感動したくなるほど本物に近づけられた感触と共に
口内で自分の唾液が跳ねる淫靡な音がして、カアッと頭が熱くなった。
「んっ、・・・ふぁっ!・・・んーっ、・・・んんーっ、」
哀願するような声をあげてから、それがともすれば何かを連想させるような調子に
なっていたことに気づき、また羞恥の波が襲ってくる。
頭を振ろうとしても、手で制止しようとしても動かせないのは、後ろと左右から
棋士たちの手が頭部と体をがっちり固定しているからだと混乱した頭で気がついた。
――何故、彼らはこんなことを。
人間、相手が酒が弱いと聞けば飲ませたくなるし
くすぐったいのが苦手と聞けば腋の下の一つも弄ってみたくなるものだ。
それと同じように、彼らは単に若輩の棋士がグロテスクな料理を前にして
腰が引けているのをからかっているだけなのだろうか?
閉じられない口の端から体温を帯びた液体がつうっと零れ出る。
「んっ、むっ、・・・ふぅーっ!」
「塔矢君、どうしたんだい。食べないの・・・?」
白川はそ知らぬ顔で首を傾げながら手にしたモノを軽く動かした。
唾液に濡れた唇と、その物体の表面を覆う薄皮とが擦れ合ってキュッキュッと音を立てる。
そのたびに内部から押し出された唾液が唇の端から溢れ出る。
これは、この状況を堪らなく恥ずかしいものに感じてしまうのは、
自分に後ろ暗いことがあるからなのだろうか――



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!