戻り花火 5


(5)
アキラがいつ頃から社に惹かれるようになったのかは知らなかった。
単に碁打ちとしてということだけであれば、北斗杯予選の自分と社の闘いを見た時点で
アキラは既にあの自分たちと同い年の有望な打ち手に惹かれていたのだろう。
だが碁の実力で惹きつけるだけなら、自分が社に劣るとは思わない。
それとは別の所で、いつの間にか、本当にいつの間にか、アキラの心は社に攫われてしまっていた。
今まで自分がアキラと過ごしてきた年月はいったい何だったのかと思うくらい呆気なく。

北斗杯が終わってから、アキラとあの激戦の数日間を振り返る機会は何度もあった。
だが不自然なほどにアキラは自分からは社について触れることがなかった。
ヒカルのほうから社の話題を振ると、アキラは一見平然とその話題を受けながら、
今までヒカルの前では見せたことのなかった少し哀しそうな遠い瞳をした。
そうしてその後は決まって、物思いに沈むような、何か考え事をしているような、
ヒカルの知らないおとなしいアキラになった。

不自然なのは社も同じだった。
北斗杯の後で何度か連絡を取って碁のこと、社の進路のこと、色々なことを語り合ったのに
社もまた、アキラの棋譜やアキラの父塔矢行洋について口にすることはあっても
アキラ本人については決して自分から話題にすることがなかった。

それだけなら、二人があの数日の間に喧嘩でもして仲が険悪になっているのかと
ヒカルも思ったかもしれない。
だがそうではなかった。
二人はずっと連絡を取っていたのだ。ヒカルの知らない所で、ヒカルとの会話では決して
互いの名前を出さないままで。
その頃既にアキラは、日常的にヒカルと体を重ねる間柄だったというのに。



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