無題・番外 5


(5)
「バカだよ、オレは。物分かりのいいふりをして、さっさと手放して。
折角モノにした相手を自分から手放すなんてな。」
だがオレの腕の中で他の男の名を呼ぶ奴を、引き止めておいてどうする。虚しいだけだ。
そしてその相手も、同じように真剣にアキラを思っているのでなければ、渡したりなんかしなかった。

緒方はアキラの事を問い詰めに来た進藤ヒカルの、幼さの残る、だが真剣な眼差しを思い出した。
なぜかその眼差しはアキラを思い起こさせた。外見的には似た所なんてどこにもない筈なのに。
同じような顔をして、同じように相手のことをオレに聞いて。
まるでお互いの事しか見えていないように。
同等の強さで惹かれ合っているような二人を、横から見ていたオレはなんだ。まるで道化だ。
最初っから、オレの部屋に来たのもオレのためじゃなく、アイツのためだったのに。
最初っから、オレではなく、アイツしか見ていなかったのに。オレはそれを知っていた筈なのに。
けしかけたのはオレの方で、わざわざアイツをこの世界に呼んだのもオレだ。

オレは、バカだ。
進藤なんか構わずに、放っておけば良かったんだ。
名人に引き合わせ、院生試験の口添えをしてやり、わざわざその事をアキラに報告してやり、
まるでオレが仲立ちしてやったようなもんじゃないか?
オレさえそんな事をしなければ、進藤が棋界に入ってくることも、オレとアキラの間に入って
くることもなかったかもしれないのに。
そして近い将来、アキラを奪っただけでは飽き足らず、オレのタイトルも奪いにくるのだろう。
それともアキラの方が早いか。
二人が競り合いながら、トップまで駆け登っていく様が見えるようだ、と緒方は思った。
せめてオレの出来る事はできる限りのタイトルを保持して、頂点で彼らを待ち受ける事だけ。
彼らがそこにやってくるその日まで。だが今度は、今度こそは簡単に渡してやりはしない。



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