嘆きの少年王・訂正編 5


(5)
「アキラくん、今日の衣装はこれよ。」
満面の笑みでスタイリストの市河嬢が差し出したのは、浴衣だった。
「着付、大変でしょう?手伝ってあ、げ、る。」
「い、いえ、和服は着慣れてますから大丈夫です。」
強引にアキラ王の着換えを手伝おうとするスタイリスト嬢を楽屋からやっと追い払って、
王は軽く息をついた。頬が紅潮しているのも、息が荒いのも、馬を走らせてきたためだと
だれもが思ったろう。だが、アキラ王の身体を今支配しているのは、背後から彼の身体を
抱きしめていたレッドの力強い腕の記憶だった。
こんな感傷に浸っている場合ではない、とアキラ王はパチンと両手で自分の頬を叩いてから、
少年王の略装をするりと脱ぎ捨て、今日の衣装を身に纏った。

「アイツも大変だなあ、そんな執事相手じゃさあ。」
「ああ見えても、抜けた所あるっぽいもんなあ。」
衣装を身に着けて撮影セットに向かったアキラ王の耳に、そんな笑い声が聞こえた。
アキラ王のまなじりがキッと上がる。屈辱と怒りをこらえて、アキラ王はスタッフと他の
メンバーの待つ、セットの前に進み出た。
するとさっきまで笑っていた連中の声が止まった。
アキラ王の、その凛とした涼やかな佇まいに、誰もが息を飲んだ。
「皆さん、ボクの不手際でお待たせしてしまって、大変申し分けありませんでした。」
王がそう言って深々と頭を下げると、漆黒の髪がさらりと落ちて、浴衣の襟元から覗く
白いうなじが、見るものの視線を捉えた。
カメラマンがごくり、と思わずつばを飲みながら、何とか、声を出した。
「いや…と、とんでもない。間に合ったから、大丈夫だよ。塔矢くん。
それじゃ、さっそく、キミはそこの碁盤の横に座って…」



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