浴衣 5
(5)
駅を通りすぎ、銀行前の信号を渡ると、そこから露天商の小さな店々が、ひしめくようにして軒を連ねている。
はだか電球のまぶしい光と、やたらに派手な暖簾にけたたましい呼びこみが、僕たちを包みこむ。
焼きあがったベビーカステラの香ばしい匂いに食欲をくすぐる焼き蕎麦のソースの焦げる匂い。まだ生暖かい風が、江戸風鈴の涼しい音色を辺りに響かせ、色あざやかな風車をくるくると回す。
「想像してたのと全然違う」
「どう違うの?」
「こんなに賑やかだとは思わなかった」
「8のつく日が、お不動さんの縁日なんだけどね、今日は一年に一度の例祭なんだ。だから、いつもよりお店も多いければ、人出も多い」
そんなことを説明しながら、僕たちは露天を冷やかして歩いた。
縁日に行くと、なぜか買ってしまうものにアンズ飴がある。
僕が「食べる?」と進藤に訊いたら、彼は失礼なことに人の顔を見て吹き出してから、「一つだけにしとけよ」と偉そうに言ってくれた。
まったく、何年前の話を蒸し返してくれるんだ。
そんな進藤は、薄荷パイプ愛好家のようで、子供向けアニメのキャラクターのなかからさんざん迷った挙句、アンパンマンの形をしたパイプを選んだ。
広島風お好み焼きを半分づつ食べながら、因島に行ったときの思い出を話してくれた。
僕が、秀策記念館にまだ行ったことがないと言うと、いつか一緒に行こうと言ってくれた。
輪投げをして、射的をして、金魚すくいをした。
進藤は金魚すくいが得意だと自慢するだけあって、たった100円で5匹もすくってみせた。
持って帰ったところで、水槽一つあるわけでもない。進藤は、彼の見事な手つきに熱心に拍手をしてた子供に、ビニール袋ごと金魚を上げてしまった。
二人で並んでヨーヨー釣りをしたけれど、これは最初から紙縒りが濡れていたようで、僕も進藤も一つも取れなかった。
釣れなくても一つはもらえるので、僕は赤いヨーヨーを、進藤は白いヨーヨーを選んだ。
少し水の量が多いのかろ、少し重く感じるヨーヨーをパンパン言わせながら、お不動さんの境内に入った。
占いのくじを引いて、ふたりとも真っ先に目を通すのは勝負事の欄だった。
お不動さんの本殿で、お賽銭を投げこみ、拍手を打った。
初詣でもないから、願い事は些細なこと。
進藤が聞きたそうにしたから、かえって言いたくなかった。
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