アキラとヒカル−湯煙旅情編− 5
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「なんだ、宿も同じじゃねえか。」
「すごい偶然だね。」筒井の笑顔も、ぜんぜん変わらない。ヒカルは囲碁部で筒井達と頑張っていた頃の空気を懐かしく思い出していた。あの頃はアキラはまだ自分の空気の中にはいなかった。
「・・・と、あの・・・こっち塔矢アキラ・・・筒井さんは知ってるよね。塔矢、囲碁部の先輩の筒井さんと、将棋部の加賀。」
加賀とアキラに因縁がある事は、ヒカルの頭からはすっかり抜け落ちていた。
それでも全く支障はなかった。当のアキラ自身、加賀を覚えてないのか、まっすぐ加賀と筒井を見ると「塔矢アキラです」、と会釈しただけだった。加賀は加賀でそのことを気にする風でもない。
「ふーん、しかし変わった組み合わせだな。」顎に手を当ててにんまりとしている。
筒井は筒井で、あの塔矢アキラが釣りを、とか何とか言って少々興奮ぎみだ。
「釣れたのか?」
ヒカルはどんなもんだというように魚をみせた。
「ウグイか・・・これは食っても美味くねえぞ、逃がしてやれや」
「そういう加賀はどうなんだよぅ」少々拗ねたヒカルが問う。
加賀のバケツの中には綺麗な魚が3匹泳いでいた。
「ちょい前までまづめ時だったからな、いっきに釣った・・・美味いぞ、おまえらにも食わせてやる。」
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