雪の日の幻想 5


(5)
余韻に震え、脱力したように四肢を投げ出された白い身体を見下ろしてから、乱れた髪をはらい、
こぼれ落ちた涙を唇で吸い取る。顔に落ちる唇の感覚にぴくりと震え、それから羞恥から逃げる
ように顔を横向ける彼が愛おしくて、頬にそっと口づけを落とした。
  …アキラ…愛してる……
一人呟くようにこぼれた声に、思いがけず返答が帰ってくる。
  …ボクも……
驚きに目を見開いて身体の下のアキラを見下ろすと、迷いのない黒い瞳が見上げている。
  …好き。緒方さん。
はっきりと、唇がそう動くのを見た。
不覚にも涙が滲みそうになるのを感じながら、それを隠すように彼の頭を胸に抱え込む。
彼をつぶしてしまわないように、彼の頭を抱いたまま、仰のいてベッドに横たわる。胸元に顔を埋
めた彼の頭から、こぼれ落ちる髪の感触が心地良い。その艶やかな彼の黒髪を、慈しむように、
愛おしむように、ゆっくりと撫でる。体にかかる彼の体重を感じながら、彼はこんなにも軽かった
だろうか、と思う。彼の腰はこんなに細かっただろうか、肩はこんなに薄かっただろうかと、探るよ
うに動き出した手に、ああ、と彼が小さな息を漏らす。
  …おがた、さん……もう…
絶え入るような細い声で切なげに囁くその声が、胸に染み入る。
  …アキラ……?
手の動きを止めそっと名を呼ぶと、彼が自分の身体の上で身を起こす。
わずかに首を傾げ、泣き出しそうな目でじっと見つめてから、ふと目を伏せて耳元に唇を寄せる。
か細い声が、くすぐるように耳に届く。
  ……すき……おがたさん……
そしてもう一度、ほとんど音になりきらない、かすかな震えのような声が耳元で響く。
  …アイシテル……
嘘だ。
何故かこんな時にも捨てきれない理性がその言葉を否定する。
嘘だ。おまえがそんな事を言うわけがない。オレに向かって。
知っている。オレは。
おまえが愛しているのは、
「アキラ、おまえは――」



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