sai包囲網・中一の夏編 5
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さぁ、進藤。ボクの一手にキミはどんな手を返して来る?
「キミも、インターネット囲碁をやるんだね」
「あっ、あー、ちょっとだけな。お前もやるのか?」
それにこくりと頷きながら、ボクは淡々と布石を築く。
「強い打ち手がいる。saiという名だ。ボクも昨日打った」
「サイ〜?」
「そう、sai(エスエーアイ)。キミと同じ、ハンドルネームだね」
「は、ははっ、そーだな。すごい偶然だよな」
偶然ね。この暑いのに冷や汗をかきながらあくまでも惚けようとする
進藤。なら、ボクがキミのその白石を殺してあげるよ。
「インターネット囲碁をやっている人達が、saiの正体は誰かと大さ
わぎだよ」
「え?saiの正体?」
目に見えてギクリと表情を強ばらせた進藤。あいかわらずの大きな目、
ボクより低い目線。考えを巡らせるように、その視線をキョロキョロと
動かしている。その幼い仕種に思わず笑みを零したボクに、進藤は誤魔
化しきる自信を覚えたのか、ぐいっとこちらに身を乗り出した。
「えー、なに、お前、そのsaiがオレかもしれないと思ったんだ!」
お前に勝っちゃったことがあるもんなーと、笑い飛ばしてる。だけど、
キミはまだ知らない。ボクがかなり前からsaiの対局を観戦していた
こと。それを告げたとき、キミは何て答える?
早く、進藤の驚く顔を見たい。だけど、こうやってもっと話していた
い気もする。いつだって、ボクと進藤の間には何か障壁があって、こう
やって向かい合って話したことなんて、数えるくらいだ。
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