sai包囲網 5
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「知らない?」
「知らない!」
「じゃあ、さっき緒方さんに何を問い詰められていたの?」
「えっ、それは・・・」
緒方はヒカルと塔矢名人がsaiのことを話していたのを知っている。
アキラと緒方は同門だ。緒方がsaiに拘る理由は分からないが、二人
が今日のことを話す機会はいくらだってある。ここでうまく誤魔化して
も追求の手が伸びるのが後回しになるだけだ。
「えーと」
向かい合う自分とアキラ。二年前、ネットカフェの前で別れたきり、
それ以来、こんなふうに近くに立つことはなかった。
「もう君の前には現れない」
そう言って自分に背を向けたアキラ。あんなに冷たい目をして、去っ
て行ったのに。棋院で顔を合わせたときも、すぐに視線をそらして部屋
から出て行ってしまったのに。
saiが関わらない自分には、まったく興味がなかったくせに・・・。
急にあのときの悲しさ、悔しさが舞い戻って来て、ヒカルは視線を上げ、
アキラを睨み返した。
「昨日、俺も塔矢先生とsaiの一局を見たんだ」
どこで?とは訊かず、アキラは頷いた。
「それで?」
「すごい一局だったから感動して、それを塔矢先生に言いに来ただけだ。
緒方先生は勘違いしてるんだよ。俺がsaiって言ったのをちょっと聞
きかじったらしくて・・・」
そこで切って、ちらりとアキラの様子を窺うが、その表情から自分の
話が有利に伝わってるかは判断できない。仕方なく、ヒカルは続けた。
「緒方先生が、怖い顔して追いかけて来るから、つい逃げちまって」
「たったそれだけで、あの緒方さんが君を追いかけたっていうのは納得
がいかないな」
「それだけもこれだけもねぇーよ。嘘だと思ったら、塔矢先生にでも緒
方先生にでも訊いてみろよ」
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