平安幻想異聞録-異聞-<駒競> 5
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白い薄絹で仕立てられた狩衣を掛布団かわりにふわりと体の上にはおって、
その下で佐為とヒカルは身を寄せ合う。
久しぶりの情事に二人とも満足して、ヒカルの方は、佐為の腕まくらに頭を
預けてトロトロと夢の世界に足半分、現の世界に足半分といった様子だ。
佐為は、ヒカルの邪魔をしないように、その顔にかかる金茶の前髪をかき上げる。
あらわにされた濡れた睫毛の下からのぞく深い瞳が、佐為の事を見ていた。
「ねぇ、佐為。背が高いのは嫌?」
「何です、唐突に?」
「うん。こういう趣味の人ってさぁ、その相手が元服しちゃったり、背が延びて
大人になったりしちゃったら、するのやめちゃうって聞いてるから」
「背が延びたってヒカルはヒカルでしょう? それとも、ヒカルはやめて欲しいん
ですか?」
ヒカルは黙って、佐為の顔を見つめた。
自分が、死ぬまでヒカルをこの手に抱いていたいと思うのと同様に、少年の方でも
自分の事を想っていてくれているに違いないと思っていた佐為は、その沈黙に少し
戸惑う。
「ヒカル?」
「うん、あのねぇ…」
少年の瞳が、少し上目遣いに佐為の様子をうかがう。
「言ってごらんなさい」
「大きくなって、佐為の事を抱いてみたいとは思うよ」
「………」
予想外の答えに、佐為は一瞬呆けた顔をしたが、次にはクスクスと笑いだしていた。
「可愛いですね、ヒカルは」
「な、なんだよ、笑うことないじゃん! 言えっていうから言ったのに!」
ヒカルが肘をつき、半身をおこして抗議する。
佐為も上半身を起こして、ヒカルの頭を自分の肩のあたりに抱き寄せる。
睦みあった後の二人の肌は、夏の夕方の暑さの為だけでなく汗ばんでいる。
「ごめんなさい。でも、ヒカルがあんまり健気な事を言うものだから」
「嫌なら、嫌って言えよ。あきらめるから」
ヒカルが拗ねて、横を向く。
「嫌じゃありませんよ」
佐為はまだ喉の奥で笑いながらも、はっきり言った。
「そうですね。ヒカルの背が、私より高くなったら考えてあげましょう」
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