身代わり 5


(5)
佐為は急にヒカルが気持ちが重くなったのを感じていた。
だが不用意にそこに立ち入ることはできない。ヒカルの心はヒカルのものであるからだ。
自分はヒカルの心のすみに住まわせてもらっているだけなのだ。その理由はただ一つ。
神の一手を極めるためだ。そう、これは千年経った今でも変わらない。
まぶたを閉じ、深呼吸をする。余計な感情は捨てなければならない。
《ヒカル》
「なんだよっ」
勢い良く顔をあげたヒカルは、押し付けられた唇にどきりとした。
だがようやくのキスをすぐにヒカルは受け入れた。
《ヒカル、大好きですよ》
なんのてらいもない言葉に、ヒカルはみるみる赤くなった。
そんなヒカルを見ながら、佐為はもう一度、心のなかで言った。誰よりも大好きだと。
けれども、自分にはヒカルよりも大切なものが、譲れないものが、ある。
佐為は決心をした。そして心のなかでヒカルに詫びた。
ヒカルは佐為を睨むようにして見ていたが、やがてほほえんだ。
「オレさ、佐為とキスするの、すごい好きだ」
ヒカルは佐為とぎくしゃくしていたものが無くなったのがうれしかった。
だが佐為はほほえみ返すことができなかった。それをごまかすようにまたキスをした。
「へへ、目が覚めちゃったよ。一局打とうぜ」
《明日、起きられなくなりますよ》
たしなめるがヒカルはもう碁盤の前にいる。
「大丈夫だよ。ほら、オレが先番な」
碁石を置く小気味良い音がした。惹かれるように佐為も座った。
結局その夜、ヒカルは眠らせてもらえなかったのだった。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル