望月 5
(5)
月明かりに照らされた廊下をいくと、中ほどにススキを活けた花瓶と団子の置かれた台、
それに里芋やら栗やら野菜の置かれた盆がある。
「なんだい、これぇ。」
緊張から放たれた開放感もあって本来の調子に戻り、ヒカルは素っ頓狂な声をあげた。
「お月見だよ。あぁ、きょうは中秋の名月っていってたっけ。キミのうちではやらない?」
「やんないよ、そんなの。なに、団子とか飾るの?」
「そう。中秋の名月のときにはこうやってススキや団子や秋の収穫をお供えするんだ。」
「ふぅん…。あ、ホントだ、満月。キレイだな。」
ヒカルは花瓶からススキを1本スッととり出すと、アキラの頬に向けていたずらをした。
アキラににらまれると、ヘヘッと笑って、今度はその柔らかな穂を自分の頬にあてて撫ぜる。
その目はそのまま見事な満月に吸い寄せられ、ヒカルは彫像のように動かなくなった。
――佐為、塔矢名人、引退してから海外を飛びまわって碁を打ってるよ。もうオマエとは
打たせてあげられないけど、思う存分碁を打っててイキイキしてるから、いいよな。オレ、いつか、
名人と打てるかな、あのときみたいな碁を。
でも、オレがあんな碁を打てるようになるのはまだまだ先だな。でもって、相手は名人じゃなくて、
やっぱ塔矢かな。
佐為、オマエの目指してた神の一手って、いつになったら辿りつけるんだろう。
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