温泉旅情 5
(5)
車は、起伏のない、特に面白味もない真っ直ぐな緩い坂道を走っていた。
特に共通の話題もないので、車内での会話は滞りがちだった。
程よい揺れと、心地好い風が眠気を誘うのだろう。ヒカルはシートにもたれて眠そうな目を擦っている。
日程を調整するために、彼も少なからず無理をしたのかもしれない。
「寝ててもいいぞ。着いたら起こしてやる」
「運転してもらってそういうわけにはいかないよ」
俺にしては珍しい親切は、妙に律儀な理由で断られた。
電車とバスを乗り継いで行けば着くと言ったヒカルに車で行くことを提案したのは自分だった。
年の離れた男の二人連れが、家族連れや団体旅行客に紛れて、公共交通機関で浮き立つことを考えれば、
数時間の運転など苦痛でも何でもない。
それに、ヒカルとふたりでいるのは嫌いではない。
彼は、目を見張る美人というわけではないが、よく見ると整った顔立ちをしている。
だが、そこに造り物めいた硬さはない。
中身は、初めて会った頃とたいして変わりはないようで、くるくる変わる豊かな表情は、
見ていて飽きない。いたずらっぽく笑うところも変わってはいない。
しかし、まだ子供のままだと侮っていると、ときおり見せられる、幼さと色気の同居する表情に
どきりとさせられる。目が離せなくなる。
何をしでかすかわからない危うさも、無謀さも含めて、自分は、彼を気に入っているのだろうと思う。
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