少年サイダー、夏カシム 5
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「なんだよ、くれないのかよ」
ヒカルは少しふくれっ面をした。和谷は慌てて、ペットボトルを手に取り、ふたを開けた。するとプシューという音をたてて、泡とともにあの懐かしいラムネの爽やかな甘い香りがあたりに広がった。
ヒカルにそれを手渡すと、ヒカルは待ってましたと喜びを表情に表し、ペットボトルを口にあてる。
しかし寝ながら飲んでいたため、うまく飲むことができず、口の端からダラダラとこぼしてしまう。それらは頬や顎を伝い、枕や着ていたTシャツに染みをつけた。和谷はその雫の行方をじっと見つめていた。
「あ〜あ、こぼれちゃった」
ヒカルはベタベタするのか、鬱陶しそうにそれらをTシャツでぬぐった。
炭酸飲料でしっとりと濡れた赤い唇から目が離せない。キスしたい。今すぐにでもキスしたい。和谷はそんな衝動を抑えながらじっと見つめていた。
するとヒカルが恥ずかしそうに笑って和谷のほうへ向いた。
「和谷、ちょっと飲ませてくんない」
ヒカルはためらいながらペットボトルを和谷に渡す。
「えっあっ、えええぇぇ!?」
和谷は驚き、震える手でそれを受け取る。
「ちょっと恥ずかしいけどさ」
ヒカルは少し照れ笑いをした。ヒカルは恥ずかしさよりも楽しみにしていた炭酸飲料が飲めないことのほうがよっぽど嫌らしい。
和谷は少し戸惑いつつも、よしっと何か決心をしたかのように(もしくは喜びのあまりのガッツポーズ)右手で拳をつくると、持っていた炭酸飲料を口いっぱいに含んだ。
開けたばかりの炭酸飲料は、泡がシュワシュワと口の中ではじけ、ちょっと痛かった。
和谷はペットボトルを床に置くと、ヒカルの顔を両手で固定し、薄く開いた唇に躊躇することなく口付けた。
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