しじま 5


(5)
ボクも食べてみて、言葉につまった。
このお米も門下の人が持ってきてくれたものだ。粒も味もしっかりしていて、家族で大絶賛
したものなのに、ボクの手にかかると、なんでこんなふうになってしまうのだろう。
「……進藤、食べるな」
「なんかお粥みたい」
だから食べるなと言ってるだろう!
進藤は次に卵焼きに箸をのばした。口に放り込むと、すぐにおかしそうに笑った。
いったい今度はなんなんだ。
「塔矢、口を開けろよ」
箸で切り分けた卵焼きをボクのほうに差し出してきた。
言われたとおりにすると、進藤が口のなかにそれを入れてきた。
ボクは進藤の使った箸をくわえたことに気を取られた。だから塩のかたまりが舌を刺激した
とき、思わずのどの奥で悲鳴をあげてしまった。
進藤はボクのその様子を見て笑い声をたてた。
「ものすごくしょっぱいよな。どうせ塩と砂糖をまちがえたんだろ? お約束なヤツだな」
その通りでなにも言えない。
「おまえさあ、こんなんでいつも食事はどうしてんだ?」
「お父さんの門下の人が来てくれる。でもちゃんと一人でなんとか……」
そう、一人でなんとかはなった。
だけどだからと言って、ボクはまともに作ったことなんてないんだ。
出来合いのものや、門下の人や市河さんが差し入れしてくれたものを温めたりしただけだ。
フライパンをふるったり、包丁をにぎったりなんて、していない。
本当にボクは碁以外、なにもできないヤツなのかもしれない。
「なあ、台所どこ?」
「台所なんかになんの用があるんだ」
卵焼きを作るだけでも、ゴチャゴチャにしてしまった台所をボクは思い浮かべる。
あんなところに通したらますますボクは呆れられる。
だけどそんなボクの心情を知らない進藤は、笑顔で言ったんだ。
「オレが作ってやるよ。ちっとはましだと思う」



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