深淵 5


(5)
闇から現れた顔はついこの間見ていた顔、ヒカルが対局で負かした御器曽だった。
「なんで・・・アンタが・・・」
御器曽はフッと笑みを漏らすと木に体重を預けていたヒカルの身体を
強引に草むらへと引き倒して仰向けにした。後ろ手に縛られたままの腕が
背中に当たって鈍い痛みを生み出し、草と土の匂いが鼻腔をくすぐる。
「対局に負けた腹いせ・・・といったところかな?」
御器曽は醜悪な顔をヒカルにのしかかったままその目の前に持っていき、
舐めまわすようにヒカルの顔を検分する。ヒカルは嫌悪感で顔を背けた。
「お前よく見ると可愛い顔してるじゃないか。1年ちょっと前に会ったときは
プニプニしたガキだったのになぁ」
「ふざけん・・・!」
な、と言葉を紡ごうとした唇は御器曽のそれによって塞がれる。
「う・・・んっ!」
(こんな奴に・・・嫌だ!!)
ヒカルは反射的に歯を立てた。ぶちっ、と肉の切れる嫌な感触がして御器曽が唇を離す。
「このガキっ!!」
パァン、と夜の闇の中に乾いた音が響く。一瞬の間の後、痛みと共にじわりと口の中に血の味が広がり、
ヒカルは殴られたのだと気づく。
「ふん、言っておくが助けを呼ぼうったって無駄だぞ。この辺りはこの時間全くと
言っていい程人通りが無いからな。それに男に犯されそうになってる所なんて見られたくないだろう?ん?」



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