初めての体験 5


(5)
「和谷」

手合いの後、帰ろうとした和谷を後ろから、ヒカルが呼び止めた。
ギクッと振り返った和谷にヒカルは、笑顔を見せた。その天真爛漫な
笑顔を見て、あの時のことは夢だったのではないかと和谷は思った。
このヒカルが実は・・・だったなんて。

「なあ。今からかえんのか?この後暇?」
と、ヒカルが顔をのぞき込んで聞いてきた。その仕草が妙に色っぽく
見えるのは、和谷の気のせいだろうか?
「い、忙しいんだ。オレ。こ、この後、約束があって!」
和谷は、顔を思い切り左右に動かし、両手をちぎれるくらい振った。
あまりに首を振りすぎて、ちょっと気分が悪くなった。
ふらついた和谷をヒカルが支えた。
「ちょ・・・!大丈夫かよ、和谷。」
和谷は、慌てて体をヒカルから離そうとしたが、ヒカルはがっちり腕を
掴んで離さなかった。そして、和谷を見て、
「気分が悪いんだったら、トイレで吐いた方がいいぜ。」
と、何か含みのあるような顔で言った。・・・ように見えた。
和谷は、ヒカルに引きずられるようにして、トイレに連れて行かれた。



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