魔境初?トーマスが報われている小説(タイトル無し) 5


(5)
「進藤」
俺の名前を呼ぶ声は、熱に浮かされてるみたいに掠れていた。
違う。熱でおかしくなってるのは、俺のほうかも。
だって、ほら。足元がふらふらして考えが全然まとまらない。
わかってるのは、和谷のところへ行かなきゃいけないということだけ。
狭いはずの部屋が異様に広く感じる。長い長い距離を歩いて、やっと和谷のところに辿り着いた。
「進藤・・・」
ゆっくりと抱きしめられる。和谷の胸から、俺と同じボディソープの香りがした。
いつもと違う匂いだけど、このあったかい胸と嫌味じゃない程度に筋肉のついた腕は、まちがいなく和谷のもの。
俺の大好きな、和谷の腕の中の空間。
軽く上を向かされて、俺は無意識のうちに目を閉じていた。
すぐに唇に温かいものが降ってくる。こういうところが与えられることに慣れきってる証拠だよな、って自分でも思うけど。

「っん…っ」
遊びみたいな軽いキスが、だんだん長く深くなっていく。
和谷の舌が俺の口の中に入ってきて、歯並びを確かめるように舐めまわす。
遠慮の欠片もない動きだと思う。だけどそれに嬉々として応える俺は、もっといやらしくて変態なのかも。
口の中から響いてくるぴちゃぴちゃという音に、すっかり煽られてる。
そして全身がトコロテンみたいにぐにゃぐにゃになったころ、そっとベッドに横たえられていた。
和谷が俺の上に覆い被さってくる。俺に体重をかけ過ぎないように、そっと。

ああ、いよいよ。始まっちゃうんだ。
ベッドのスプリングが小さく軋んで、始まりの合図を知らせてくれた。



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