月明星稀 5
(5)
「………え…っ……?」
告げられた言葉の意味が、ヒカルの心に届くまで一瞬の間を要した。
その間をあらかじめ予測していたように、アキラがゆっくりと繰り返した。
「告げたいのは、想いを伝えたいのは君だよと、言ったんだよ、近衛光。」
そして、呆然としたままのヒカルの顔をアキラの手が捕らえ、暖かく柔らかな唇がヒカルの唇をそっと
押し包み、ゆっくりと離れ、けれど触れそうな距離にとどまったまま囁いた。
「君が、好きだ。」
言葉の内容さえなければ怒っているとでもとれるような真剣な眼差しが至近距離からヒカルを射た。
それからヒカルの顔に浮かんだ戸惑いに小さく笑い、顔をはなした。
そしていつもと変わらぬ穏やかな顔で、ヒカルにこんな言葉をかけた。
「もう、やすみたまえ。寝所の用意はさせてある。」
「……おまえは?」
「僕か?…僕は……そう、今少し、月の光に酔うとしよう。」
そう言ってヒカルから目をはなし、ゆるりと天を見上げた。
月は変わらず煌々と輝いていた。
隅に控えていた女房がすいと立ち上がり、ヒカルを奥部屋へと案内する。
後ろ髪を引かれるように振り返ったヒカルに、アキラが声をかけた。
「おやすみ、よい夢を。」
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