「甘い経験」のための予習 5 - 6


(5)
忘れていた事を、思い出さなくてもいい事を、思い出してしまった。
なぜ、あの人はあんな事をしたんだろう。
―知りたいんだろう?教えてやるよ。
「オレ…塔矢が最初じゃなかったんだ。」
バカみたいだ。ファーストキスなんて、女じゃあるまいし、そんなのにこだわるなんて。
ヒカルは唇をゴシゴシと擦った。

そしてアキラだって。
―アイツはオレのものだ。
―見ていたんだから、わかったろう?
思い出したくも無い、緒方の、そしてアキラの言葉が耳に甦る。
それを打ち消そうと、ヒカルはぎゅっと眼を瞑って、首を振る。
「知らない。知らない、おまえと緒方先生の事なんか。関係ない。」
考えるな、そんな事。考えたってどうにもならないんだから。前の事なんか、関係ない。
今は、塔矢はオレのものだ。あいつはもう関係ない。

会いたい。
急にアキラに会いたくなった。
この時間なら、きっとアキラは碁会所にいる。この間は「もう行かない」なんて言ってしまったけど、
そんな事で意地をはるよりは、会いたい気持ちの方が強かった。


(6)
「進藤…!どうしたんだ?突然。」
嬉しそうに自分を見るアキラの表情を見て、ヒカルは心臓がズキンと痛むのを感じた。
「いや、なんかさ、やっぱりおまえと打ちたくなって…今日、いいか?」
アキラは眼を丸く見開いて、それからはにかんだように笑った。
「もちろんだよ。」
アキラが素直にそう答えてくれたのが嬉しかった。外野のオヤジ達が、またなんだかんだ言って
たが、そんな事は気にならなかった。
それなのに。
検討を始めたら、いつのまにか、いつものように段々とお互いの口調は激しくなり、ついには
「もう帰る!」と言って、ヒカルは席を立って、碁会所を出てしまった。そしてその勢いでビルの下
まで降りてしまってから、なぜ今日ここに来たのかを思い出して、ヒカルは大きいため息をついた。
―オレ、何やってるんだろう?
情けない。っていうか、どうしょうもない。こんな事の繰り返しじゃ。
今更碁会所には戻れない。けれどこのまま喧嘩別れのような状態で帰りたくない。
そう思って、ヒカルはアキラを待つことにした。
でも、碁会所のオヤジたちには見つかりたくなかったので、バス停の影に隠れるようにして、ビルの
入り口を見張ってアキラが出てくるのを待っていた。



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