Linkage 5 - 6
(5)
「シャワーはいつ浴びたんだい、アキラ君?」
男はそう言ってベッドに腰掛けると、天井を見つめたままのアキラを半ば
呆れたような表情で眺めた。
「昼過ぎに起きて、それから浴びましたよ……」
面倒くさそうに返事をしてベッドに視線を向けたアキラは、下肢に絡み付いて
いたシーツを引き上げて腰に巻き直すと、怠そうに起き上がりブラインドを
降ろした。
「じゃあ、オレは一風呂浴びてくるとするか。そういえば…起きてから何か
食ったのか?冷蔵庫から出したのは……」
そう言って男はサイドテーブルに置かれたペリエのボトルを手に取り、
振り向いたアキラに見せつけるように軽く振った。
「…これだけのようだな。まあいい。適当に見繕って買ってきたものが
キッチンにある。オレが出るまでに好きなものを食べておくんだな」
薄く笑いながら炭酸が抜けきったペリエを一気に飲み干し、男は立ち
上がってアキラに近付いた。
長くほっそりした指先にアキラの髪を巻き付けて軽く引っ張ると、耳元に
唇を寄せて耳朶にそっと歯を立てる。
「何も食わずに一戦交えるのはきついだろう、アキラ君?オレは気の抜けた
セックスをする趣味はないんでね」
そう囁いてわざと力を入れて噛んだアキラの耳朶を悪戯っぽくぺろっと
舐めると、男は部屋から出ていった。
アキラは憔悴しきった様子で男に噛まれた耳に触れ、まだ少しへこんでいる
男の歯の跡を爪でなぞりながら、重い足取りでドアに向かって歩き出した。
(6)
キッチンにはデパートの紙袋が置かれていた。
袋の中には大小さまざまなプラスチックトレイが山をなしており、赤飯に
ハンバーグやパスタ、はては中華総菜と、和洋中華入り乱れたメニューに
アキラはしばし呆然とした。
(デパートの地下に初めて行ったのかな……緒方さん)
普段から生活感とは縁遠い男だけに、デパートでの緒方の悪戦苦闘ぶりを
思い浮かべ、アキラは苦笑する。
見ているだけで胃もたれを起こしそうなメニューの中から、赤飯と中華総菜を
選んで少量ずつ皿に盛りつけ、冷蔵庫からエビアンのペットボトルを取り
出すと、アキラはテレビのあるリビングへと向かった。
ソファに浅く腰掛け、持ってきた料理に箸を付ける。
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