少年王の愉しみ 5 - 6
(5)
「えーと、ちょっと休憩しようか…」
わずかなシーンであるのに、もう何度繰り返したか判らない。
寝たり起き上がったりを繰り返す少年王も、さすがに疲れてきた。
その疲れを見て取って、ついに演出家が20分の休憩を言い渡した。
控え室に戻って、用意されていたお茶を飲んで軽く息をつくと、後ろでドアの開く音がする。
振り向くと、少年王の最も愛する少年の姿がそこにあった。
「待っててくれたのか?」
少年王は嬉しそうな声をあげて、彼に近寄った。
だが彼―イゴレッド、又は進藤ヒカル―は明らかに不機嫌そうな様子を隠さなかった。
「レッド?」
「ゴメン…待ちくたびれた?」
「…違うよ。」
言いながらもその声はあからさまに怒っていて、少年王は不安げに彼の目を覗き込んだ。
「おまえに…怒ってるんじゃねぇよ。」
「それじゃ、何をそんなに怒ってるんだ?」
「わかんねぇのかよ、おまえ!?」
レッドは思わず声を荒げた。
「あいつら、いつまで繰り返させるつもりかよ?もう充分じゃないか!」
「…って…それはボクの演技にどこか拙い所があるからじゃないのか…?そりゃ、ボクとしては
ちゃんと演ってるつもりだけどさ。」
どうだか、とレッドは内心舌打ちした。
あいつら、演技どうこうなんかじゃなくて、こいつのあの姿を―あの声をもっと聞きたくて、続け
させてるだけなんじゃねぇか。
畜生。人の恋人をなんだと思ってやがるんだ。見せ物じゃねぇんだぞ…!
(6)
「そもそもさ、この台本からして気に入らないよ。
腹が立つのも当たり前だろう?誰が自分の恋人の寝姿を全国に晒したいよ?」
「でも…だって、それは、仕方がないじゃないか、台本が…」
「そうだよ!まず、この台本が問題なんだよ!
だいたい、何考えてるんだよ、脚本家は?ホントにこれが必要なシーンなのかよ?
要はさ、おまえのオヤジが真夜中に碁盤に向かってるって絵があればいいんだろ?
それなのにさ、何も、おまえが寝てる所から始めなくたっていいじゃないか!」
レッドの怒りに若干戸惑いながらも、彼が何だかヤキモチを妬いてるふうなのが、そして自分の
事を『恋人』とはっきり言ったのが嬉しくて、彼の不機嫌は気にならないではないが、何だかいい
気分で、笑みがこぼれそうだった。
「やなんだよ、おまえのそんな姿を人目に晒すのが…!」
そう言いながら、レッドは少年王の細い身体を引き寄せて、抱きしめた。
「おまえはオレのものだ…誰にも見せたくなんかない…」
「え?ちょ、ちょっと待って…」
だがおざなりな抵抗などものともせず、彼の唇は唇をかすめたかと思うと、耳たぶを軽く噛む。
そして耳元から首筋へ舌を這わせながら、彼の手はパジャマのボタンを一つずつ外していく。
「ダメ…まだ、撮影終わってな………あ……ん…」
するり、と肩からパジャマを滑らせると、白い肩から胸があらわになる。
彼はそこへ唇を寄せながら囁いた。
「大丈夫、見えるところには痕は付けないから…」
囁き声が熱い息となって少年の胸をかすめた。その僅かな刺激に少年の身体はぴくりと震えた。
「や……ダメ……」
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