闇の傀儡師 5 - 6
(5)
やがて視線から全身の皮膚を直接まさぐられる感触に変わった。
指先の腹の部分がヒカルの額に触れてきて、それは顔から胸部へと移り、その下へと移動していく。
「や…めろ…っ」
そう叫んで暴れたかったが相変わらず手足は動かぬままだった。
そしてその指はヒカルの局部で止まると、得体の知れない恐怖で
萎え下がっているヒカル自身をぐりぐりと圧迫する。
「うあっ」
指は円を描くようにしてヒカル自身を体に押し付けるように捏ねる。
ヒカルにとっては膝ぐらいの大きさに感じるその指で、あと僅かに力を入れられれば局部が
体にめり込むかプチッと潰されかねない、そんな恐ろしさと、緊張感で高まった触感の板挟みの中、
まるで血が通っていないかのように動かない自分の手足とは違って急速に
下肢の中心に体熱が集まっていくのがわかる。
「は…あっ…」
微妙な力加減で圧迫されてその部分が固く勃ち上がってくる。視線がそこに集中し、相手の
ハアハアという呼吸音がはっきり感じられる。
「やめろ…ってばあ!」
ヒカルは渾身の力を込めて両手を握り、体を揺さぶった。
「あっ」と低い声で相手が叫んだ気がした。
その時ガクンと体が滑るような感覚がして、暗闇に吸い込まれるような目眩を感じた。
暫くして目を開いたヒカルの瞳に見なれた自分の部屋の電燈が映った。
(6)
トクントクンと胸の中で心臓が脈打ちかなりの息苦しさを感じていた。汗で前髪がべったりと
額に貼り付き、夜着もしっとりと湿っている。そーっと腕を動かすとちゃんと動く。
「ゆ、夢か…」
ほおーっと大きなため息をついてヒカルは上半身を起こした。頭の芯が痺れるように重い。
「夢にしては、生々しい感触だったぜ…くそっ」
夜着代わりのジャージの股間の部分が特に濡れている気がして慌てて下着ごと下ろしてみると
自分自身が夢の続きを求めるように熱を持って頭を擡げて脈打ち、雫を漏らしていた。
ヒカルはパッと赤くなって慌ててティッシュを2〜3枚手に取ると布団をかぶり、処理した。
机の上から例の写真が2枚とも消えているのにヒカルが気がついたのは朝になって出かける間際の事だった。
その日、棋院会館での大手合いの対局室でヒカルは苦戦していた。
相手は中段位程度とはいえ、今朝の夢といい写真の事といい嫌な感じで頭がもやもやして
集中しきれないのだ。
最後の最後までもつれ込み、ヨセの勝負で僅差で何とか拾い勝ちした。
ふーっと大きく息をついて相手と挨拶を交わした時、背後に突き刺さるような視線を受けて
ハッとなって振り返り、その相手を認めてもう一度ハアーッと息をついた。
「おどかすなよ、塔矢…」
二人で対局室を後にする。
「おどかしたつもりなどない。何だ、進藤、今の対局は。君らしくない。」
「オレだって調子の悪い時があんだよ。」
「どこか体の具合でも良くないのか?それとも何か気に掛かる事でも?」
本気で心配そうに覗き込んで来るアキラの顔を見て、ヒカルは写真の件を話そうか迷った。
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